動物繊維の種類や特徴、環境問題まで(羊毛(ウール)・山羊毛編)

    クマのぬいぐるみ

中程度の精度で自動的に生成された説明

    化学の進歩により、ナイロンやポリエステルなどの化学繊維が開発されたことにより、私たちの服も安価で丈夫な服を気軽に手に入れることができるようになりました。

    そんな技術進化をする中で、天然繊維も根強い人気があります。今回は、天然繊維の中でも「動物繊維」に注目しました。動物繊維には、どのような魅力があるのでしょうか。

    目次
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    動物繊維とは

    動物繊維の分類

    動物繊維は、大きく以下のように分類されています。

    動物繊維の中では大きく”獣毛”、”絹””その他の動物繊維”に分けられます。

    獣毛は、哺乳類の体毛から取れる動物繊維です。実際のビジネスシーンでは、羊毛の使用がほどんどなので、通常、「獣毛」といえば、羊毛以外の獣毛を指すことが多いです。絹は蚕から取れる繊維で、その他の動物繊維には、羽毛や蜘蛛の糸などがあげられます。蜘蛛の糸は、細く丈夫ですが、収穫量が少ないため、製品化は難しく、蜘蛛の糸そのものではなく、蜘蛛の糸の組成を参考に人工的にタンパク質由来の素材が研究されています。また、興和株式会社は、ミノムシの糸が、クモの糸より弾性や強度が高いとして、研究していますが、まだ実用化はされていません。

    動物繊維の特徴

    動物繊維は、私たち人間と同様にタンパク質からできています。

    動物繊維は、火をつけると焦げる性質があります。髪の毛が燃えると焦げ臭い異臭がすることは、動物繊維の特徴の一つとして挙げられます。

    動物繊維は、タンパク質でできた毛を餌にする虫からの食害を受けやすいため、取り扱いに注意をしなければ、服の虫食いの被害にあうかもしれませんので、注意が必要です。

    動物繊維の中でも特に獣毛の特徴として、うろこ状のスケールがあり、他の化学繊維やコットンなどの天然繊維にはない獣毛独自が持つ特徴です。スケールは空気を含みやすく、保温性があります。また、吸放湿性にも優れていて、湿気を吸うとスケールが開き放湿し、水分が減少するとスケールが閉じます。この働きのおかげで、快適な水分状態を保つことができます。

    さらに獣毛の場合、外からの環境(気温・直射日光など)から体を守る役割があるが体毛にあるため、衣料品への使用に適する利点がたくさんあります。

    動物繊維のそれぞれの特徴

    羊毛(ウール)

    獣毛の中でも最も身近な繊維はウールではないでしょうか。

    一言で羊と言っても、羊の種類は3,000種以上いることはご存知でしょうか?実はかなりの種類があるのですが、今回は衣料品に使用される代表的なウールを紹介します。

    ウールには、以下のような特徴があります。

    • 熱伝導率が低い(夏は涼しく、冬は暖かい)
    • 吸湿性がある
    • 弾力性があり、型崩れやシワになりにくい
    • 縮れやすく、フェルト化する
    • 燃えにくい(難燃性)
    • 防臭性がある

     この特性を活かし、一般的なウールのイメージである秋冬の防寒具に使用されるだけでなく、梳毛の強撚糸使いのウールなどは、サマーウールと呼ばれ、夏でも快適に過ごせる素材としてよく利用されています。

    また、その機能性と防臭性を活かし、アウトドアブランドが展開する登山用のインナーや靴下にもよくウール素材が採用されています。

    燃えにくい特性を活かし、ひな壇やカーペットなどの敷物に使われている毛氈 (もうせん)もウール100%のものがよく利用されています。

    縮みやすいという欠点に対してもスケールオフなどの防縮加工をしたウォッシャブルウールなども開発されており、万能素材といってもいいウールですが、花粉がつきやすいという欠点もあります。環境省が公開している花粉症環境保健マニュアルによると綿素材の9.8倍の花粉付着率となっています。

    メリノウール

    ウールの種類の中でも、「メリノウール」の知名度は高いのではないでしょうか?実に、日本で輸入される羊毛のうち、80%近くがメリノウールです。高級ウールとして知られるメリノウールですが、生産地によって「オーストラリア・メリノ」や「フランス・メリノ」などと呼び分けされています。

    特にオーストリア・メリノは白く、品質が高いことで有名です。スーツ素材として人気のあるタスマニアウールもオーストラリア南東に位置するタスマニア島原産です。オーストリア・メリノは、羊毛の中でも繊維が細く、縮れが多いことが特徴に上げられます。この縮れが、空気を含み温かさをキープしてくれるのです。さらに、メリノウールは空気が多く含まれるため、熱伝導が低く、夏は涼しく、冬は暖かい魔法のような機能を持っています。

    メリノウールは、繊維の細さによって、ランク分けされています。

    一番細いスーパーエクストラファインメリノは、繊維の直径が16.5~17.5μmで、メリノウールの中でも特に滑らかな肌触りです。エクストラファインメリノは直径18.5~19.5μm、ファインメリノは直径20~22μm、ストロングメリノは直径23~25μmと、繊維の細さでランクが分けられます。

     

    コリンデール

    メリノとリンコルン(英国種)という種の交配によって生み出された改良種です。

    しなやかで毛質のいいメリノと、肉質がいいリンコルンの血を受け継ぐコリンデールは、両者のいいところ取りをしたウールです。

    乾燥に強く、バルキー性(かさ高性)、光沢感があります。生産量も多いことから、比較的に安価で流通しています。毛糸にも多く使用され、名前の馴染みはあまりないかもしれませんが、身近にある繊維の一つです。

     

    ペレンデール

    ロムニーマーシュ(英国生まれのロングウール)の雌羊とチェビオット(英国生まれ)の雄羊の交配による改良種です。ニュージーランドのマッシー農科大学のジョン・ペレン教授によって作られたウールです。

    毛編み毛糸として使われることが多く、フリースにハリやコシ感があり、弾力性があります。糸の直径は30~34μmで、メリノウールよりはやや肉厚な繊維です。

    山羊毛

    山羊毛で代表的な繊維は「カシミヤ」「モヘヤ」です。山羊毛はウールに比べると繊維が細く、とても柔らかいことが特徴です。

     

    • 繊維が細く柔らかい、肌触りがいい
    • 軽い
    • 保温性に優れている
    • 型崩れしにくい
    • 毛玉ができやすい

    カシミヤ

    カシミヤは、中国やモンゴル、イランなどの高台に生息しているカシミヤ山羊から作られる高級毛繊維です。カシミヤ山羊1頭からは、約150-250gしか取れないため、服1着にはヤギ4-5頭ほど必要とされる貴重な繊維です。

    カシミヤの特徴といえば、「肌触りの柔らかさ」「型崩れのしにくさ」「保温力」です。

    毛繊維の多くは、チクチクする肌触りがありますが、カシミヤはとれも滑らかで柔らかい風合いをしています。この柔らかさは、カシミヤの特徴である非常に細くて軽い繊維だからこそ生み出される肌触りです。そしてカシミヤ繊維は、弾力性があるため、シワになりにくく、型崩れがしないことも魅力です。

    さらに、厳しい寒さの環境で育つカシミヤ山羊の毛は、保温性にも優れています。カシミヤ山羊には、外側まで伸びる太い「刺毛(しもう)」と呼ばれる毛と、内側にあるやわらかい「産毛」の2種類の体毛が生えています。これにより、より空気を含みやすく保温性に優れているのです。

     

    モヘヤ

    モヘヤはアンゴラ山羊から取れる毛繊維です。アンゴラ山羊は、トルコのアンカラ地方が原産で、今では南アフリカ、西アジアやアメリカ北部に生息しています。

    モヘヤの特徴は「肌触りの柔らかさ」、「縮れの少なさ」「絹のような光沢感」です。

    モヘヤの毛繊維は、動物繊維の特徴でもあるうろこ状のスケールが平らで滑らかな形状をしています。そのため、カシミヤ同様にチクチクした感じのない、柔らかい風合いになります。キューティクルが開いていないため、濡れたり擦れたりしたときに引っかかり、繊維同士が絡み合い固まることがないので、フェルトのような縮みが起きにくい素材です。

    モヘヤの繊維は、絹のような上品な光沢感があります。

    獣毛に関する環境問題

    カシミヤ山羊の増加による内モンゴルの砂漠の拡大

    カシミヤの人気が高まるにつれ、需要が拡大し、放牧されるカシミヤ山羊の数も増えました。カシミヤ山羊は牧草の根まで食べてしまうため、このことは、草原にはとっては好ましくなく砂漠化の一因と言われています。中国政府が草原保護政策を行い、放牧数のコントロールを行う事態となりました。

    ミュールシングウール

    ミュールシング (mulesing) は、羊への蛆虫の寄生を防ぐため、子羊の臀部の皮膚と肉を切り取る処置のことです。無麻酔で処置後の治療も施されないため、動物愛護の点から問題視されており、多くの国で禁止されています。しかし、オーストラリアでは禁止されておらず、H&Mなど多くのブランドが、オーストラリア産ウールの不使用を宣言しています。オーガニックコットンと同じく、テキスタイルエクスチェンジがRWS(Responsible Wool Standard)というウールに関するトレーサビリティの基準を設置しています。

    リサイクルウール

    日本最大の毛織物産地、尾州産地では、従来より毛七(ウールの混率が7割(70%程度)の意)と呼ばれる、定番糸がありましたが、SDGsの流れを受け、リサイクル素材として注目されています。

    反毛(はんもう)

    生地で、製品を作る時に出る裁断くずや製品を回収し、専用の機械を使って、もう一度、わたに戻します。この工程のことを反毛と呼びます。

    尾州産毛七

    できあがった反毛を再度製品を生産できるまで、強度を上げるために先染ポリエステルとブレンドします。このブレンドする際の加工技術と1/10などの糸番手のものを豊富な色展開で定番として在庫ストックする企画力で、尾州産地は高く評価されています。

    毛七原料の流れ

    まとめ

    POINT

    動物繊維:「獣毛」・「繭繊維」・「その他の動物繊維(羽毛など)」

    タンパク質を原料に作られる繊維

    獣毛は主に羊毛と山羊毛がよく使われている

    羊毛:熱伝導率が低い、吸湿性に優れている、弾力性があり、型崩れやシワになりにくい


    • メリノウール
    • コリンデール
    • ペレンデール

    山羊毛:繊維が細く柔らかい、軽い、保温性に優れている型崩れしにくい、毛玉ができやすい

    • カシミヤ
    • モヘヤ

    獣毛に関する環境問題需要増加による環境破壊の懸念、動物愛護に反する行為リサイクルウール

    • カシミヤ山羊の増加による内モンゴルの砂漠の拡大
    • ミュールジングウール
    • リサイクルウール 毛七

    動物繊維には、他の天然繊維にはない特徴がたくさんあります。

    人間の体毛にも、紫外線やごみなどからの防御や汗の発散による体温調節など、生きる上で重要な役割を果たしています。同じ哺乳類の獣毛や、その他の動物繊維にも、人工的に作られた化学繊維にはないさまざまな性質があり、快適で着心地のいい服作りには欠かせません。その一方で、動物繊維の環境にも配慮することが必要だと考えられます。

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