生地問屋とは テキスタイルコンバーター、産元商社など生地の商流について

繊維業界の方にとっては、生地問屋は馴染みが深く、直接、仕入れをしているアパレルメーカーや卸している生地メーカー以外にも間接的には何らかのかたちで接点がある方が多いと思います。しかし、馴染みのない方にとっては、アパレルメーカーは、なぜ生地工場から直接生地を仕入れないのか疑問に思っている方もおられるかと思います。今回は、生地問屋が生地の取引においてどんな役割を果たしているのかまとめてみました。

目次

生地問屋とは

そもそも、問屋とは

問屋とは一般的には、卸売業者のことを指します。問屋は、商法第551条では「自己の名義で他人のために物品の販売及び買入れを行う業者」と定義されています。取引自体は自己の名義で行いますが、損益はすべて売買を委託した他人(生産者・小売商・仲買商など)に帰属します。問屋の収入源は取次に対する委託者が支払う手数料となります。つまり、問屋は代行販売人のような位置づけで、商品を生産者の代わりに販売し、生産者と買い手の間に入る仲介者のような役割をしています。

生地問屋とは

生地問屋の場合は、どうでしょうか。

問屋の定義から考えると、生地問屋は生地生産者の代行販売人のような位置づけで、生地を生地メーカー、生地工場の代わりにアパレルメーカーなどに販売し、生産者と買い手の間に入る仲介者のような役割をしています。

しかし、現在の生地問屋と呼ばれている会社は、繊維業界の実際のニーズに合わせて、単純な仲介者ではなく、様々な機能を果たしており、従来の問屋の定義に収まりません。また、その果たしている機能によって、テキスタイルコンバーター産元商社などとも分類されています。

では、テキスタイルコンバーターや産元商社など様々な生地問屋はどのような機能を果たしているのでしょうか。

生地問屋の機能とは

仲介機能

一番最初にイメージする問屋の機能と言えば、バラエティー豊富な商品を取り扱える仲介機能でしょう。自社製品の生産から行うメーカーの場合、当たり前のことですが、まず自社の生産設備で生産できるものになります。また、その生産できるアイテムの中でも、原料の仕入れが必要になりますので、戦略的に売れる商品に絞るなどして、ある程度取り扱う生地のジャンルが絞られてきます。

生地の生産や加工は難しく、素材ごとに取り扱いが変わるため、知識や経験を要します。多種多様の品種を、コントロールすることは難しく、自社の得意分野に専念していることがほとんどです。

しかし、生地問屋の場合は、仕入れ先から生地を仕入れて販売するため、それぞれの分野に優れた仕入れ先の商品を仕入れることができます。専門性の高い高品質な生地を、それぞれのジャンルで顧客に提供できることは、問屋ならではのアドバンテージです。

生地問屋は、買い手にとっては、各分野に特化したメーカーや生産者を探す手間が省けます。限られた客層の集客になりがちな専門メーカーからすると、あらゆる客層が集まる問屋に商品展開ができることは、商品を知ってもらえるチャンスが増えます。

ネットワークが広い生地問屋に生地の探し物の相談をすれば、容易にバイヤーの欲しい生地を見つけてきて、提案してくれるでしょう。

また、売り手・買い手の仲介以外にも、生産メーカー同士の仲介をしているという側面もあります。日本の生地製造現場の多くは分業体制になっています。糸メーカー、機屋(製織)、染色工場が別になっているのはイメージしやすいと思いますが、実際は、さらに、「経糸整形」という織る前の準備だけをする工場や起毛などの「整理加工」だけをする工場があったり、一般の方が想像以する以上に細分化されています。

こちらを産元商社と呼ばれている形態の企業が間に入り、原料代の前払いの資金を提供したり、生産スケジュールの調整をし、最終的に販売する機能まで担っており、コーディネーターのような役割を果たしています。

与信機能(決済機能)

こちらも何らかの商売の経験がある方にとっては、イメージしやすいと思います。

繊維業界は、川上になるほど、合繊メーカー、紡績メーカーなど設備投資が必要な業態になってくるため、必然的に企業規模が大きくなっています。取引を開始することを「口座を開いてもらう」などと表現したりしますが、大企業になればなるほど口座を開いてもらい、取引を開始してもらうことのハードルは高くなります。

取引先の与信管理には、外部の調査会社に信用情報を調べてもらったり、常日頃から取引先の営業状態に異常がないか目を光らせたりとコストと手間暇がかかるため、それなりの取引が見込めないと二の足を踏むためです。

そのため、様々な商品を扱うことで買い手と密にコミュニケーションを取っている生地問屋に与信管理を任せ、生地問屋を通しての販売を基本にしているメーカーも少なくありません。

また、新規販売先に積極的に販売する社風の企業でもあって、COD(キャッシュオンデリバリー)と呼ばれる現金入金後出荷と呼ばれる取引条件が求められることが多いです。

生地問屋によっては、支払いサイト(期間)の長い手形での支払いを受け付けていたり、手形は受け付けていなくても、売掛後払いでの支払い条件を設定していることが多いです。

アパレルメーカーのビジネスモデルは、生地を仕入れた後、製品を製造・販売し、現金化するまでのスパンが長くなっています。アパレルメーカーにとってキャッシュフローの問題は絶えずつきまといます。支払いの猶予期間を長くできる生地問屋経由の取引は、仕入れをする上で、大きなメリットになります。

在庫(備蓄)機能

在庫(備蓄)機能は、生地問屋のビジネスモデルで最も進化している部分かもしれません。テキスタイルコンバーターなど様々な名称で呼ばれる要因のひとつです。

わかりやすいメリットで言うとまず、小口販売があります。生地の流通単位は、1反約50mからの販売になることがほとんどです。(実際のところは、小規模な事業者にとっては、これでも多いと感じる人も少なくないのですが。)

しかし、生地生産側にとっては、1バッチ(1回の染色で投入する数量)では、1,000m以上での生産となることは珍しいことではありません。生機の製織のロットは、染色のロットと比べて、さらに大きいです。尾州産地など一部、ロットが小さい産地もありますが、数千メートルくらいは必要とされる産地が大半を占めます。

こちらを生地問屋が、在庫を持ち販売することで、ストック生地であれば、サンプル制作用やテスト販売用に、カット手数料のアップチャージを支払うことで、メーター単位でも購入可能です。

また、納期のメリットも大きいです。本来、生地製造のリードタイムは長く、原料や工場の背景に問題がなくスムーズに加工できるとしても、染色だけでも1,2か月かかったり、織るところ(製織)から加工するとさらに1,2か月かかるのが一般的です。

ファッション要素が強いアパレルブランドほどトレンドの移り変わりが激しく、需要予測が難しくなります。そのため、できるだけ引き付けて商品企画をすることになります。

テキスタイルコンバーター

アパレルメーカーからの発注後、少しでも早く生地を納品してほしいというニーズに応える形で、生地問屋が先回りをして、「自主的に企画をして生地を見込み生産・在庫備蓄して販売する」という単純な仲介機能を超えた機能を果たしています。このような業態の企業をテキスタイルコンバーターと呼びます。企画・生産・在庫管理・販売までのほとんどの機能を果たしており、実態としては、ファブレスメーカー(工場を持たないメーカー)になっています。

カイハラ株式会社など一部の大手デニム生地メーカーや染色加工工場の倉庫精練株式会社を子会社化した化合繊の織布メーカーである丸井織物株式会社などテキスタイル生産を自社で賄えるメーカー企業は少ないです。日本の繊維業界では、多くの産地が分業体制となっており、このような産業構造もテキスタイルコンバーターや先にふれた産元商社が成長した下地になっていると考えられます。

このような業態は世界的に見ても少数派で、欧米の生地メーカーは原糸から生機の段階までの在庫を持つことは多いのですが、染色済みの在庫、カラーストックまですることは少ないです。

日本のアパレル市場は、実は、世界的に見るととてもバリエーション豊富で、様々なファッションブランドが活動しています。生地問屋の存在が小ロットでクイックな生地調達を可能にしていることも大きな要因の一つです。

近年、日本のテキスタイルサプライヤーが海外進出をしていますが、在庫ストック機能は販売する際のアドバンテージの一つにもなっています。

まとめ

生地問屋は、日本独自の発展を遂げ、様々な機能を果たしています。単純な生地の探し物ができるテキスタイル・ECサイトや与信に役に立つフィンテックサービスなどで代替できるシーンも増えましたが、生地問屋でしかできない機能も多いです。

製品での納品をしてくれるOEM機能をもつ企業や独自の原料を開発したり、付加価値を強める企業努力をしている企業も増えています。

シーンやニーズに合わせて新しいサービス、生地問屋の両方と上手に付き合っていくことで、よりビジネスを円滑に進めていくことができるでしょう。

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