生地の別注に不可欠な「ビーカー」ってなに?

ガラスの瓶

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テキスタイル業界において、「カラー」はとても重要な要素ですよね?次のシーズンに、どんな色が流行するのか、落ち着いてみせたいのか、インパクトを持たせたいのか、など色は印象に大きな影響を与えます。デザイナーさんは、色の選定にとても悩まれるのではないでしょうか?

日本では、生地問屋が豊富な染め上がり生地のストックサービス(在庫備蓄販売)を展開しているため、アパレルメーカーに勤めるファッションデザイナーであっても、自分で色出しをめったにしないという方もいるかもしれません。しかし、ブランドの世界観を表現するために、生地の生機から別注はできなくても、ブランド独自のカラーを別注オーダーして、差別化をするというのはよくとられる方法です。

その際に必要となってくる理想の色を生み出す最初のステップ、「ビーカー」とは何かについて紹介します。

目次

ビーカーってなに?

ビーカー(LAB DIP)

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ビーカーとは、色の出方や見え方を確かめる作業です。組織や糸使い、素材が変わることによって、同じ染料で染めても、色の出方は大きく変わります。そのため、いきなり数100m以上の生地を染めるより、生地を小さくカットして少量で染めるサンプルを作ります。この少量での色出しの工程が、ビーカーと呼ばれ、英語では「LAB DIP」と呼ばれています。ビーカーと呼ばれる由来は、実験などで使われる試験容器のビーカーが使って染色することからビーカーと呼ばれるようになりました。理想の色に近づけるために、ビーカーはとても大事な役割を担っています。

先染めやプリントの生地加工手法の場合は、同じような位置づけの量産前の色確認サンプルを「マス見本」と呼んでいます。

ビーカー工程の流れ

ダイアグラム

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デザイナーさんが色を決めたら、どのような色に仕上げたいかの色見本を染工場に渡します。染工場は色見本を受け取ると、色の分析をします。分析方法は各工場さまざまですが、測色と呼ばれる色の測定などをすることが一般的なようです。

分析後は、色のレサイプを決めます。染料をどのくらい入れるのかや、どの染料を使用するかなどの、色のレシピのようなものを作ります。素材によって、使用する染料が変わったり、Bluesign®認証染料などの環境負荷軽減染料などの指定があれば、それに沿った染料選定が必要となります。

色のレサイプが決まると、ビーカー瓶に染料を入れて、P下生地(生機の糊付けを落とす精練処理をした生地)を染めます。生地の入ったビーカー瓶は、専用のビーカー染色機で染められます。染色温度や圧力などを、各生地に合わせて設定されます。一般的に、ナイロン生地であれば、100℃前後、ポリエステルの場合は、130℃前後で染色されます。染色後は、ビーカー用のセット機で乾燥とシワを伸ばします。

染色が終わると必要に応じて、ビーカーに後加工をすることがあります。例えば、シレー加工やコーティングまたはラミネートフィルムの貼り合わせ加工をする場合、特に薄い生地などは後加工の影響で色味が左右されます。シレー加工の場合は、光沢感が出たり、熱をかけるため色が少し薄くなる可能性があります。コーティングや樹脂が白色または、グレーなどのカラー樹脂を使うと、その影響で表地の見え方も変わってくるのです。そのため、ビーカー時点でも、後加工を施す場合があります。

ビーカーサンプルができると、依頼主に提出され、イメージ通りの色に再現されたか確認します。アパレル企業側は、ビーカーの色を確認後、色の決定をします。色味や堅牢度に問題があった場合は、必要に応じて、再ビーカー依頼もすることは可能です。

COLOR STANDARD(色見本)

ビーカーを依頼する際に、色見本を染工場に渡すのですが、どのような見本が業界では使われているのでしょうか?

 PANTONE(パントーン)

PANTONE(パントーン)は、アパレル業界では認知度の高い色見本になります。

アメリカのニュージャージー州に本社がある「PANTONE」が提供していて、世界中で利用されている色見本帳のひとつです。日本でも広く利用され、アパレル以外にも、多くの分野の見本として使用されています。

PANTONEには、ペーパータイプのものと、生地タイプの色見本があります。どちらかは、好みですが、同じ色番号でも、ペーパーか生地タイプで少し見え方が変わるので、注意しましょう。生地タイプは、ペーパータイプより少し高くなります。

 支給見本

PANTONEなどの、世界共通の色見本もありますが、客先独自の色見本を支給することも可能です。

大手スポーツブランドなどは独自の色見本帳を持っていることが多いです。色見本帳以外にも、製品などからカットを切って見本としたりと好きな色見本として、ビーカー依頼することができます。

 デジタル色見本

デジタル色見本も最近では、出てくるようになりました。例えば、CSI(Color Solutions International)が出しているデジタル色見本QTXなどがあります。色の詳細がデータとして入っていて、色の再現の指標になる情報が載っています。データ上の見本になるため、色の比較は基本的には測色機などを使用して、データ上でカラーマッチを確認します。

ビーカー時の注意点とは?

ビーカーを作る際の注意点はどのようなものがあるのでしょうか?

 色の限界

素材や糸使いによって、理想の色に近づかないこともあります。天然繊維なのか、合成繊維なのか、ナイロンやポリエステルでも染料が変わります。また、フィラメントカウントの高い糸は、色落ちがしやすくなる傾向にあります。他にも酸化チタンの含有量が一番多いフルダルの糸は、光沢感が消えるため、彩度が低くマットな印象になります。そのため、フルダルの糸に彩度な高い鮮やかさやつやのある光沢感を出すことは、難しくなります。

ダイアグラム, 概略図

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 堅牢度

理想の色になったとしても、「堅牢度」には注意しましょう。堅牢度とは、色の抵抗性を指し、いわゆる変色のしにくさや色落ちのしにくさを確認する指標です。素材によっても、退色しやすい生地があります。退色しやすい色の場合、一緒に洗濯した服にも色移りする可能性があります。後々のトラブルを避けるためにも、堅牢度の測定依頼と結果の確認は必ずするようにしましょう。

 ビーカー布の残布確認

1度で色合わせができることもありますが、カラーマッチや堅牢度の面から、再ビーカーを作成することもあります。工場の混み具合にもよりますが、精練をしたビーカー布(P下)があれば、1-2週間程度でビーカーを作成する染工場が多いかと思います。しかし、ビーカー作成する色数が多かったり、再ビーカーなどを重ねると、ビーカー布がなくなる可能性があります。その際に、ビーカー納期にプラス1-2週間かかる可能性もあるので、ビーカー布の残布をこまめに確認して、なくなるタイミングで次のビーカー布を作成する方がスムーズに進めることができるでしょう。

光源による演色性

太陽の自然光と蛍光灯などの照明の種類によって、色の見え方が変わってくることを演色性といいます。一部の茶系やオリーブグリーン系の色などは光源によって見え方が大きく変わってくることがあります。依頼側(アパレルなど)と受託側(工場など)でどの光源で合わせるの確認をしていることが多いです。

生地を選定されてから、まず最初に行う作業がビーカーです。とても小さなサンプルですが、重要な役割を果たしています。量産加工に進む前に、トラブルを起こさないためにも、必ず確認しておきましょう。

まとめ

POINT

ビーカー(LABDIP):

  • 色の出方や見え方を確かめる作業

ビーカー工程の流れ

  • 色の分析→レサイプ決定→染色→セット→(後加工)→色確認

色見本

  • PANTONE
  • 支給見本
  • デジタル色見本

ビーカー時の注意点

  • 色の限界
  • 堅牢度
  • ビーカー布の残布確認
  • 光源による演色性

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