今までいくつかの異形断面糸を紹介してきました。
化学繊維の異形断面糸は、今までにたくさんの数が開発されてきています。
異形断面糸についての種類や特徴を深掘りしてみました。
異形断面糸とは?種類や特徴
異形断面糸とは、合成繊維の加工糸で、通常の紡糸では断面は球形になりますが、さまざまな用途に合わせてユニークな断面へと加工された糸の総称を指します。合成繊維の紡糸の際に、口金の形状や製法を工夫することで、さまざまな断面の形を持つ糸を自由に作ることができ、たくさんの種類の異形断面糸が作られてきました。
このような断面にすることで、吸湿速乾、軽量、保温、高通気、透け防止、静電気防止などの多彩な機能を持ち、用途によって使い分けます。
扁平糸(へんぺいし)
扁平糸(へんぺいし)は、英語では「Flat Yarn」と呼ばれ、通常の球形紡糸を比較して、凹凸の少ない平らなで楕円形のような断面をしています。
ベルスクェア®
引用:特殊な断面加工で高い光透過性を持つインテリアファブリック|ベルスクェア®|原糸・衣料資材・工業資材などの先端繊維メーカー【KBセーレン株式会社】 (kbseiren.com)
上の写真は、KBセーレン㈱が開発した「ベルスクェア®」の断面写真です。この楕円形状の扁平糸の特徴は、「光の透過率が高い(透け感がある)」、「光沢感」、「ミラー効果」、「ソフトな肌触り」などが挙げられます。上記の写真の例のように、通常の球形に比べて、扁平糸の方が光の乱反射拡散透過があり、通常の糸に比べて高い透明度があります。光の乱反射により、ミラー効果もあり、奥深い色合いを出すことができます。また、扁平形状によって、曲がり方がしなやかになり、ソフトな風合いになります。
春夏向けで、軽やかで清涼感のある透け素材を使用したい方には、扁平糸を使用した生地を検討してみてもいいかもしれません。
ペンタス®a
引用:化学繊維のかたち|日本化学繊維協会(化繊協会) (jcfa.gr.jp)
また、同じ扁平糸に少し工夫を加えた糸が、東レ株式会社の開発した扁平多葉型断面糸の「ペンタス®a」です。ペンタス®aは扁平な断面形状の繊維の表面に、微細な凹凸を施した葉っぱのような形状をした特徴的な糸です。この凹凸により、生地にした際に繊維間に微細な空隙を形成し、毛細管現象による高い吸水拡散性を生み出します。また、吸水以外にも、撥水剤を塗布した際に、薬剤が凹凸の隙間に入り込むことによって、高い撥水性能と持続力を保つことができます。
そして、先ほどの完全フラットで透過性の高い「ベルスクェア®」に比べて、凹凸を持たせた「ペンタス®a」は、光の透過性が少なく、透け防止効果とUVカット効果が期待できます。同じ扁平糸でも、凹凸の有無でここまで特徴が変わるのです。
<扁平Flat型>
- 透け感がある
- 光沢感
- ミラー効果
- ソフトな肌触り
<扁平多葉型>
- 吸水拡散性が高い
- 透け防止
- UVカット効果
- ソフトな肌触り
Y字型断面糸
Y字型断面糸とは、その名の通り、糸の断面が英語のY字型をしていることから呼ばれています。
Y字型断面糸も、さまざまな糸メーカーが開発していますが、今回は東洋紡の「シルファインエール®」の断面写真をお借りしました。このY字形状には、どのような特徴があるのでしょうか?
Y字型の形状により、吸水拡散性に優れています。シャープなY字の溝が水分を急速に吸い取り、拡散します。吸水性の高さは、通常の球形の糸より高いことがデータとして出ています。そのほかにも、Y字形状により、光の乱反射が起こり、透け防止効果とUVカット効果があります。そして、Y型断面の凹凸により、空気の隙間が生まれふくらみ感とかさ高性を形成し、軽量でハリ・コシ感のある生地に仕上がります。給水拡散性に優れて肌離れがいいことや、UV遮断率も高いことから、夏物などの衣料品に適しています。
- 吸水拡散性が高い
- 透け防止
- UVカット効果
- かさ高性
- 軽量
- ハリコシがある
芯鞘構造断面糸
芯鞘構造断面糸とは、糸の繊維の芯部と鞘(さや)部の2層からなるもので、異なる性質の素材との組み合わせによりさまざまな機能が付与できます。
コアブリッド™B
引用:導電・光吸収発熱アクリル繊維 コアブリッド™B | 製品情報|三菱ケミカル株式会社 (m-chemical.co.jp)
例えば、三菱ケミカルの開発した「コアブリッド™B」が一例としてあります。コアブリッドシリーズは、三菱ケミカルが保有する世界で唯一の湿式芯鞘複合紡糸技術によるアクリル繊維です
その中でもコアブリッドBは、芯鞘構造の導電性・光吸収発熱性アクリル短繊維として作られました。芯部に高濃度の導電・光吸収発熱粒子を練り込むことで、従来の練り込み型機能繊維と比較し、高い性能を発揮します。
コアブリットBの芯部に練り込まれている黒色発熱粒子が、太陽光中の赤外線、可視光、紫外線の幅広い光を吸収することにより熱に変換する働きがあります。特に、一般的には遮られにくいといわれている赤外線を吸収できるため、重ね着や中綿、芯地などでも発熱性能が得られることが特徴です。
この光を吸収して発熱する性質を活かして、セーターやダウンジャケットの他にも、不織布やカーペットなどの資材・インテリアなどにも転用されています。
ウェーブロン®
引用:210629 WAVERONΩ_A4(社名ロゴ変更).pdf (storage.googleapis.com)
また、別の例として帝人フロンティアの開発する「ウェーブロン®」があります。芯部には、酸化チタンを多く含んだ特殊ポリマーが使用され、UVカットや光の遮断効果があります。鞘部には、従来のポリエステル素材が使用され、ポリエステルの優れた染色性を保ちます。酸化チタンの多く含む素材で一本化すると、色の彩度が下がり、鮮やかな色が出しにくくなりますが、芯鞘構造によって、両方のいいところ取りができるのです。
ウェーブロンの特徴としては、白や淡色の薄手生地でも透けにくいことと、UVカット、遮熱性や染色性の良さがあります。
このように、芯と鞘のポリマーを組み合わせて、さまざまな効果を発揮することができ、用途に合わせて幅広い種類の芯鞘構造断面糸が開発されています。
まとめ
異形断面糸:合成繊維の加工糸で、さまざまな用途に合わせてユニークな断面へと加工された糸の総称
- 扁平糸
- Y字型断面糸
- 芯鞘構造断面糸
一言で異形断面糸と言っても、さまざまな種類の糸が存在しています。特に日本では、海外のショートリードタイムやキャパシティー、コスト面には勝てないため、糸や織りで変化を出しながら最先端の開発に力を入れてきました。異形断面糸は、日本の得意分野でもあり、高い付加価値を生み出す機能性加工糸が日本にはたくさんあります。