ウールの産地として世界に知れた尾州ではその加工や仕上げの技術をウール以外の繊維や複合素材に広く活用し素材の幅を広げてきました。ウールならではの高級感、クラシカルなムード、伝統的な織物の数々、重厚感などから他繊維とのミックスによる新たな表情、機能性、カジュアルな雰囲気など、昔はなかったウールの世界、尾州産地の新しい顔へと変化しました。
4月13~15日の3日間に東京秋葉原アキバ・スクエアで開催された22年春夏尾州展についてご報告します。
参加は10社。三つのテーマが設けられ各社イチオシと思われる素材をコスチュームに作りプレゼンテーションされました。代表的な素材をご紹介いたします。
テーマ1 VESTIGE (痕跡 名残り)
平和を求める心、美しい良いものを発掘する考古学者のよう。過去の貴重な財産を利用し、新しい世界へのグローバルな視点を設定する。
ナチュラル感や清涼感を表現する。白っぽい色、ブルー、グレー、石やムラ染めなどが特徴。
〇グレーのムラ染めコート
「グローセルアーバン」 ナイロン100% フィブリル加工と流し染めの融合。軽さ、エレガントなパリパリ感。
みづほ興業(株)
トップス 「先染めリップス」 ウール75/シルク25 糸の腰抜きと膨らみ出しでの反発感
パンツ 「後染めクリア」 レーヨン70/ウール30 資材用途生地を服地の風合いに。
〇ジッパーフロントのパンツ型繋ぎワンピース 森織物(資)
トップス 「麻/ポリエステル ツィル」
リネン54/ポリエステル42/ナイロン3
ラインの爽やかさとシャープな表情。
ボトムス 「麻/レーヨンアムンゼン」 レーヨン37/リネン36/キュプラ15/ラミー2
清涼感と表情豊かなアムンゼン
テーマ2 AQUATIC (水のような)
水が命を育むかのような大自然を思う環境作りに情熱を燃やすテーマ。
マリン、海の生物、空気感、ブルーからグリーンへと突き進む世界。
〇ジャケットとワンピース (株)ヒラノ
ジャケット 「ハニカムパール」
ポリエステル75/トリアセテート25
上品な膨らみ感、トリアセのハニカム組織で凸凹感を表現。
ワンピース 「トリアセリネンジャカード」 トリアセテート41/ポリエステル39/リネン19/ポリウレタン1
軽い!グランドとモチーフの染め分け。ストレッチによる凸凹感。
〇フード付きパーカーのセットアップ 宮田毛織工業(株)
フード裏「リバーモック」 テンセル70/トリアセテート30
テンセル/トリアセにより光沢とドレープ性を併せ持ったサスティナブルなサテンニット。
パーカー 「サマーツィード」 ポリエステル57/レーヨン33/ナイロン7/シルク3
ボトム 「レフトツィル」 ポリエステル75/レーヨン25 軽く膨らみ、ドライ感とドレープ性のあるキレイな綾組織。
〇セットアップ ファインテキスタイル(株)
ジャケット 「和紙/リネンツィード」 リネン57/PA(和紙)15/ポリエステル20/レーヨン6/ナイロン2
和紙とリネンのハリのあるジャケット素材。涼感あり。
インナー 「リネンブッチャー」 リネン96/ナイロン4 柔らかく軽い。
パンツ 「レーシーストライプ」 リネン60/綿40 アキハ使いの透け感のあるストライプ。
テーマ3 OASIS DREAM (オアシスで見る夢)
2020年代のヒッピーともいえるアウトキャスト(放浪者)たちは、彼らが理想とするより自由でよりユートピア的な新しい社会の基礎を築くために奔走する。エスニックを感じさせると同時に砂漠の枯れた植物の美しさを語る。肌の色に注目。
〇トップ&ボトム 林実業(株)
紺の密度の違うカラミチェックでラメのラッセル使い。
ショートパンツ 「フリクションカルゼ」 綿68/レーヨン17/ポリエステル7/アクリル6/ナイロン2
フリクション使いのツィード
(※フリクションはファンシーヤーンのような微妙な色の出し方が特徴の糸とそれを作る加工のことをいう。色の違う糸を空中で接着させムラ染めのような効果を狙った加工。絣染めのような表情がある。)
〇ジャケットとパンツ 西川毛織(株)
ジャケット 「C/Rヘリンボンストライプ」 綿47/レーヨン6/ポリエステル17
3D立体感のあるドライタッチ素材。畝のように立つヘリンボン。
パンツ 「ナチュラルリネンデニム」 リネン75/シルク16/レーヨン9
リネンのリッチデニム
「ツイル二重ストレッチ」 ポリエステル100
オールリサイクルのハリのあるストレッチ素材。裏面は赤。
「尾州マテリアルエキジビション」としては今回が21回目。前身の「ジョイント・尾州東京展」を含めると34回目となる尾州展は、ウールで築いた様々な技術を駆使し、素材開発が進められました。90年代以降合繊の開発と共に、ウールにも新たな技術が組み入れられました。他の天然素材は勿論のこと機能性を持った化合繊との組み合わせや仕上げ加工にも工夫が凝らされ、目を見張る開発の効果を挙げています。
「尾州の顔」としてのウールは大切にしながらも新しい風合いや表情を加えて産地も大きく様変わりをしました。今最も取り組まなければならない課題は、価値と価格のバランスをいかに取り、流通をスムースに行うかでしょう。エコやサスティナブルの考え方を充実させ消費者の手元に届く尾州の素材にデザイナーやクリエーターたちは大きな期待を寄せています。