「アムンゼン」生地はご存じでしょうか?
上品で美しい生地として人気の高い生地です。今回は、「アムンゼン」の生地の由来や特徴について紹介したいと思います。
「アムンゼン」とは?
「アムンゼン」
「アムンゼン」は、表面にシボのある梨地(なしじ)の織編物です。梨地とは、果物の梨の表面のようにざらざらで細かい凹凸がある生地のことを指します。ほとんどのアムンゼンの凹凸はそれほど大きくなく、近くで見るとちりめん生地に似たささやかな凹凸が見られます。婦人向けのワンピースやブラウス、舞台衣装の他にも食品などを包む風呂敷などにも使用されています。
「アムンゼン」の作り方
アムンゼン(織物)
「アムンゼン」は、経糸と緯糸を複雑に調整することで、シボ感を演出しています。経糸と緯糸の糸を飛ばす距離や場所をランダムに交差させて作られます。ちりめんやデシンなどのシボのある織物は、経糸と緯糸のどちらか、または両方の糸に、糸の撚り回数が高い強撚糸を使用して、その収縮によってシボのある表面を作り出しています。アムンゼンの場合は、強撚糸を使用せずに、複雑に調整された織り方のみで、シボを表現しています。最近では、梨地全般を指すようになったため、強撚糸を使用したアムンゼン生地もたくさんあるようです。
複雑な設計のため、通常の平織などの織機ではなく、ドビー織機を使用して作られます。
アムンゼン(編物)
編物で作られるアムンゼンは、「タック編み」または「リンクス編み」と呼ばれる手法で作られます。
タック編み
タック編みとは、特定のループ(編み目)をくぐり抜けずに重ねていき、次のコースを編む際に2本または3本まとめて糸を通して新しいループを作り出す編み方です。未完成なループを作ることをタックと呼びます。配列を変えることで、生地に凹凸ができます。
リンクス編み
リンクス編みは、正式にはリンクス・アンド・リンクスという編み方です。リンクス編みは、平編みの横列が一列ずつ縦と横の編み目で構成されます。アムンゼン編みには、リンクス編みを活用して、表目と裏目を不規則に組み合わせてることによって、細かなシボ感が出ます。
「アムンゼン」の歴史とは?
アムンゼンは元々ウールの毛織物で、梳毛(そもう)糸を使用されて作られていました。梳毛糸とは、羊毛の長い繊維を梳いて作る「梳毛紡績」の手法で紡績された糸です。開発当初は、ウールの梨地織物のことを指していましたが、現在ではポリエステルなどの合成繊維も含めて、梨地の生地の総称となっています。
「アムンゼン」は横文字の名前とは裏腹に、織物の産地でもあった愛知県の尾州地方で生まれた生地とされています。毛織物の捺染(なっせん=プリント)は難しいとされていましたが、尾州地方で捺染に成功したことがきっかけでアムンゼンの生地も開発されたと言われています。名前の由来は、ノルウェーの探検家のロアール・アムンゼン(Roald Amundsen)が、1911年に人類史上初の南極探検に成功したことが日本でも話題となり、これにちなんで名付けられたと言われています。
「アムンゼン」の特徴
シボ・凹凸感がある
さりげなく繊細なシボからメロンアムンゼンのような大きめのシボまで製織・製編時の調整によって作り出されます。平面的な生地に比べると立体感があり、やわらかい印象を与えます。
メロンアムンゼンとは、通常のアムンゼンと比べて織目の浮き出しがはっきりしていて、表面がメロンの皮のような模様に似ていることから、名付けられました。梨地アムンゼンよりも、凹凸が大きく、厚手でより立体感があります。
ドレープ性がある
生地を垂らすとゆったりと自然にひだが入るような落ち感とドレープ性があります。ほどよく体にフィットするので、美しいシルエットをキープできるとして、婦人服にもよく使用されます。生地の動きがとてもきれいのため、スカートなどに取り入れるのもおすすめです。
ハリがある
やや厚手の生地が多く、ハリ感があります。ペラペラの生地ではなく、ドレープ性とハリ感があるので、高見えする生地です。空気の入ったようなふくらみ感もあり、厚手でもゴツゴツした印象を与えません。
深みのある色
表面の細かい凹凸によって、色に深みがでて、味のある見た目に仕上がります。1色染めでも、単調な印象にならず、角度によって見え方が変わるような色の奥行きがでます。
マットな質感
光沢は抑えられて、ざらざらでマットな質感が特徴です。
高級感がある
アムンゼンは上品な凹凸やドレープ性、色の深みがあるので、ラグジュアリーな雰囲気が出ます。最近では高級スーツ向けの生地にも人気があり、ある程度の厚みとハリ感があるので、安っぽさを感じません。一般的なフラットな表面のスーツとも差別化できるので、おしゃれな印象も与えることができるでしょう。
肌に張り付かない
表面に凹凸があるので、汗をかいても肌に密着しないので、さらさらの着心地をキープできます。
シワになりにくい
ふくらみ感もあり、シボのおかげでシワになりにくい生地です。シワが多少入っても、表面にシボのある生地のため、目立ちにくいです。アイロンがけが不要なので、イージーケアとしても人気です。
プリントとも相性がいい
シボがそこまで大きくないので、プリント品としても仕上げられます。毛織物の捺染が可能になった際に、開発された生地ともあって、無地以外にも、プリント品のアムンゼン生地をよくみかけます。平面的な生地にプリントを載せるよりも、さりげない凹凸感があるので、立体感のある仕上がりになります。スカーフやワンピース、風呂敷などには特にプリント品の需要は大きいようです。
まとめ
「アムンゼン」
- 表面にシボのある梨地(なしじ)の織編物
- 日本の愛知県・尾州地方で誕生した生地
- ノルウェーの探検家のアムンゼンが名前の由来
「アムンゼン」の作り方
- 織物:経糸と緯糸を複雑に調整することで、シボを作る
- 編物:タック編み・リンクス編み
「アムンゼン」の特徴
- シボ・凹凸感がある
- ドレープ性がある
- ハリがある
- 深みのある色
- マットな質感
- 高級感がある
- 肌に張り付かない
- シワになりにくい
- プリントとも相性がいい
「アムンゼン」という名前から、海外から輸入されてきた生地かと思っていましたが、実は日本産だったのですね。南極探検に史上初めて成功したように、織物の新たな境地を踏み込むような意味が込められているのでしょうか?シボを複雑で不規則な織り・編みで再現するところが、日本で生まれた生地らしさがありますね。