以前「麻」について紹介させていただきました。今回は麻繊維の中でも、「リネン(亜麻)」に注目したいと思います。アサ科でも植物によって、特徴はさまざまです。「リネン」とは、どのような繊維なのでしょうか?
「リネン(亜麻)」とは?
「リネン(亜麻)」とは?
「リネン」はフラックスといわれるアマ科の植物を原料に作られます。リネン(Linen)はラテン語名Linum(亜麻)が語源です。日本では、「亜麻(あま)」または「西洋の麻」とも呼ばれます。
リネンは、麻の中でも茎の靭皮部分(樹木の外皮のすぐ内側にある柔らかな部分)から採取して作られる靭皮繊維に該当し、軟質繊維にあたります。
リネンは比較的寒い地方で栽培される、一年草の植物です。栽培は、主にフランス北部・ベルギー・ベラルーシ・ロシア・中国及び東欧諸国です。収穫高の一番多いフランスでは、「リンネル (linière)」と呼ばれています。
リネンは、毎年同じ土地で連作すると収穫量が減り、品質も低下するため、収穫量は限定的になります。そのため、6~7年の輪作(りんさく)を行います。輪作とは、1つの畑でいくつかの作物を順番に繰り返し栽培していく栽培方法です。短期間で育つフラックスは、土壌の肥料を多く消耗するため、収穫後は土壌が瘦せてしまいます。リネンの収穫後は、大麦や小麦、豆類などの別の作物を育てる輪作が必要不可欠なのです。そうすることで、土壌の栄養バランスを整え、保つことができます。
リネンの栽培は、主に4月頃に種子を蒔いて、7月から8月にかけて収穫します。リネンの原料であるフラックスは、白または紫色の美しい花が咲き、ボール状の実をつけます。原料である茎部分は、1mほどの高さまで成長し、茎の表皮と木質部の間に繊維の束が並んでいます。また、ボール状の実からは、亜麻仁油(リンシードオイル)が採取され、ペンキやインクなどの原料となります。
「リネン」の歴史
麻の中でも「リネン」は最古の繊維と考えられ、紀元前8000年には世界文明の発祥の地、チグリス・ユーフラテス川(南東トルコの山岳地帯から南に流れる川)に自生していたと言われています。
紀元前約1万年前の新石器時代の遺跡や紀元前の古代エジプトのミイラから亜麻(リネン)の生地が発見されています。古代エジプトでは、リネン製のカラシリスと呼ばれる巻衣が、「神に許されたもの」として、神官の衣服や神事に用いられていたことが、歴史学者によって解き明かされています。古代エジプトでは、リネンは 「Woven Moonlight(月光で織られた生地)」と呼ばれ、広く神事や一般衣料としても使用されていました。
ギリシャ人や、ローマ人の間でも、上質で純白なリネン製の布が、重宝されていました。小アジア・エジプト地方で生まれたリネンは、ヨーロッパでも広く愛され、聖書にも登場する繊維とまで登り詰めました。中世ヨーロッパでは特に多くの生産高を記録しており、ファッションはもちろん、テーブルリネン(テーブルクロスやナプキン)やホームリネン(シーツ、ピローケース、パジャマなど)の素材として使用され、「リネン文化」とも言われるほどに、生活に欠かせない繊維になりました。
日本の「リネン」の歴史
日本に初めてリネンが認知されたのは、明治時代とされています。明治維新の立役者でもある、榎本武楊が、1874年に公使の赴任先であったロシアからリネンの種子を日本に送ったことがきっかけとなります。そして、その種子を札幌の屯田兵に栽培させたとの記録が残されています。
その後、内務省技師・吉田健作が留学先のフランスでリネンの紡績を学び、1881年に帰国後、リネン紡績の重要性を唱えました。これにより、1884年に、日本初のリネン紡績会社として、現在の帝国繊維株式会社の前身の一つである「近江麻糸紡績会社」が設立されました。
第二次世界大戦では、日本でのリネン栽培が最盛期となり、北海道の十勝地方を中心に広大な土地での栽培が行われていました。当時は戦時中ともあり、軍事用として使用されていましたが、戦後は現在のように、衣料用からホームリネン、資材などの使用に展開されていきます。私たちの身近な生活にはもちろん、世界中の一流のホテルや皇室などのテーブルリネンやホームリネンとして採用されています。
「リネン」の特徴
世界中で愛されるリネンの特徴とはどのようなものがあるのでしょうか?
強度と耐久性が高い
天然繊維の中でも特にリネンは丈夫な繊維です。水に濡れる度に強度が増すとして、長く使用することができます。洗濯を繰り返しても、ダメージを受けにくい素材です。長く使い続けるカーテンやシーツ、洗濯回数の多いタオルなどにもリネン素材は適しています。
吸水速乾性が高い
リネンは、吸水性が高いことも挙げられます。コットンの2倍吸収力があると言われています。熱伝導率も高く、速乾性があるので、素早く吸収して乾燥する非常に優秀な素材です。汗をかいてもべたつかないので、快適に着続けられます。
通気性と保温性に優れている
リネンは、繊維が空洞となっているので、通気性が高く、中に空気を含むことができることから、保温性も高い素材です。汗をかいてもムレを放出してくれ、さらに保温性も高いことから、冷え切る心配がありません。夏のイメージも強いですが、実は冬のアウタージャケットにも使用され、年中通して活躍してくれます。
毛羽立ちにくい
リネンは毛羽立ちにくいことも特徴です。リネンにはペクチンという成分が含まれていて、このペクチンがコーティングのように生地の表面を覆います。そのため、毛羽がたちにくい素材に仕上がります。
光沢感がある
リネンには美しい光沢感があります。これも、ペクチンとういう成分が、表面をコーティングすることで、光沢しているように見えます。
汚れがつきにくい
リネンは、汚れがつきにくい素材です。これもまた、ペクチンという成分のおかげです。表面をコーティングのように覆っているので、汚れが付着しにくく、付着しても落ちやすくなります。化学繊維とも比較すると、静電気が発生しにくいので、ほこりもつきにくいです。ほこりがついても、払うだけで清潔な状態を保てます。
デメリットはシワと縮みやすさ
メリットが多いリネンですが、デメリットを挙げるとしたら、シワになりやすいことと、洗濯で縮みやすいことです。シワはアイロン、洗濯でも干す際に気を付ければ問題はありません。
どうしても気になる場合は、100%リネン製ではなく、他のシワになりにくい繊維や縮みにくい合成繊維などを一緒に組み合わせた生地であれば、欠点をカバーすることもできます。素材の組み合わせにも注目してみましょう。
まとめ
リネン
- フラックスといわれるアマ科の植物を原料に作られる靭皮繊維
- 寒い地方で栽培され、輪作で育てられる
リネンの特徴
- 強度と耐久性が高い
- 吸水速乾性が高い
- 通気性と保温性に優れている
- 毛羽立ちにくい
- 光沢感がある
- 汚れがつきにくい
- デメリットはシワと縮みやすさ
リネンは世界中で愛される繊維です。5つ星などの一流ホテルでも、テーブルクロスやシーツといれば、「リネン」とされるほど、上質な素材として使用されています。ファッションから生活用品、資材にまでどの分野でも大活躍しています。