東南アジア諸国との貿易の活性化のために作られた「日・ASEAN包括的経済連携協定」。協定内には、繊維産業も該当しており、ぜひ取り入れたい特恵税率ルールですよね。
今回は、協定でも最も重要な規則のひとつである「原産地規則」に焦点を当てました。どのような基準で、原産品を証明するのでしょうか?
日・ASEAN協定の原産地規則
原産地規則
原産地規則とは、締約国の原産品であるか否かを判断するための規則として定義されています。ASEAN協定の中の第3章に含まれる内容となります。前回の記事で特恵税率を受けるためには、「原産地証明書」の発行が必要と説明させていただきました。その原産地証明書は、この「原産地規則」に沿って、基準を満たすかの判断がされています。
原産地規則には、原産品の分類があります。商品が関税の撤廃又は引き下げの対象であることを、附属書1で確認できると、次はこの原産品の分類を確認します。
原産品の大きな分類は下記の3つがあげられます。
完全生産品(Wholly Obtained: WO)
協定締約国内で完全に得られ、または生産された産品。締約国の1か国で生産されたものに限ります。農畜水産物や鉱産物などが該当します。例えば魚の場合は、公海・排他的経済水域で捕獲されたものなど、原産国が1か国内であることを証明しなければなりません。
協定締約国内の原産材料のみから生産された産品(Produced Entirely: PE)
協定締約国内産の原材料のみから完全に国内生産された産品。他国からの原材料を用いて製造された原材料を含む。例えば、締約国であるA国が生機を生産する際に、同じく締約国であるB国の原材料である糸を使用して出来上がった生産品などが、PEに該当します。
協定締約国以外の材料(非原産材料)を使用して協定締約国内で完全生産された産品(Product Specific: PS)
一部非原産材料を用いて協定締約国内で完全生産された産品で、一般原産地規則または品目別規則(Product Specific Rules: PSR)を満たすものです。品目別規則に掲載がなければ一般原産地規則が適用されます。Product Specificに該当する場合は、「原産地認定基準」を満たしている必要があります。
流通する繊維の多くは、糸になる前の原材料やチップなどから最終の製品まで、1か国で一貫加工されるケースは少ないので、このPSに該当する場合も多いでしょう。
原産地認定基準
原産地認定基準には、一般原産地規則と品目別規則があります。
認定基準の確認には、まず、輸入する品目のHSコードを特定します。HSコードとは、商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約(HS条約)」に基づいて定められたコード番号です。輸入商品の品目分類として使用されています。
次に、品目別規則(付属書2)に対象のHSコードが該当するかを確認します。規定されている原産地認定基準を、該当しなければ一般原産判定基準で原産品に該当するかを判定し、確認ができたら原産国の所管官庁にて原産地証明書発給の手続きに進めれます。
関税分類番号変更基準(Change in Tariff Classification: CTC)
締約国で最終的に製造・加工された生産品のHSコードが、すべての非原産材料のHSコードと異なる場合に原産品とする基準です。コードの変更基準は3通りあり、HSコードの類(上2桁)の変更基準(Change in Chapter: CC)、HSコードの項(上4桁)の変更基準(Change in Tariff Heading: CTH)、HSコードの号(上6桁)の変更基準(Change in Tariff Sub-Heading: CTSH)となります。
↓品目別規則(附属書2)
例えば、生機で輸入した際のHSコードが54・07・10(合成繊維の長繊維織物)を、日本で加工して54・07・42(合成繊維の織物の浸染したもの)を輸出するとします。日本の原産品として認めてもらうには、品目別規則の54・07に記載のあるルールを満たしているか確認します。この場合、ルールではCTH(項変更)が必要となり、元々の輸入生機「54・07.10」から輸出染品「54・07.42」の場合は、3桁目と4桁目(=項)の数字が変わっていないため、適用できません。
もしルールが、CTSHの号変更であれば、日本の原産品として認められます。CTCルールの中で一番厳しいのは「CC類変更」となり、CTSHは比較的に易しいCTCルールとなります。
このように、日本で加工していても、適用基準に満たない可能性も十分あり得えます。適用できる前提で進めて、不適用になった場合に、売り損益を出さないためにも、注意深く確認する必要があります。
関付加価値基準(Regional Value Contents: RVC)
非原産材料のFOB金額に対して、協定締約国での付加価値の度合いを基準にするもので、多くの協定は40%以上を条件としています(RVC40)。
計算方法は下記の通りで、RVC40の場合は、原産品から非原産材料を差し引いた数値が40%以上の場合は、非原産材料を使用しても原産品として認められます。
引用:日ASEAN包括的経済連携協定―原産地規則の概要(財務省)
加工工程基準(Specific Process: SP)
製造工程における特定の加工工程を指定し、その加工が協定国内または域内で加工されたことをもって原産品とする基準です。例えば生機を輸入して、日本で加工する場合に、染色や撥水・吸水加工などが加工工程基準の条件になり、これらの特定の加工をして出荷した際に、日本の原産品として認められます。繊維加工の条件は48種類あり、それ以外の加工は条件外となりますので、附属書をよく確認しましょう。
一般ルールと品目別規則
原産地規則には、協定の第24条から26条において、「完全生産品」「一般ルール」「品目別規則」「原材料のみから生産される産品」に分けられています。
原産地規則としてまずは、原産品の分類(下記表の(a)/(b)/(c))をします。(b)に該当する場合のみ、品目別規則または一般ルールが設けられています。優先して見られるのは、「品目別規則」で、ここに該当しない場合に「一般ルール」が適用されます。
まとめ
原産地規則:締約国の原産品であるか否かを判断するための規則
原産地規則の分類
- 完全生産品(Wholly Obtained: WO)
- 協定締約国内の原産材料のみから生産された産品(Produced Entirely: PE)
- 協定締約国以外の材料(非原産材料)を使用して協定締約国内で完全生産された産品(Product Specific: PS)
原産地認定基準
- 関税分類番号変更基準(Change in Tariff Classification: CTC)
- 関付加価値基準(Regional Value Contents: RVC)
- 加工工程基準(Specific Process: SP)
原産地規則は、そもそも特恵税率を適用できるかどうかを左右する重要な確認項目です。細かいルールが定められていて、ややこしく感じられた方もおられるかもしれません。日・アセアン協定の特恵関税を検討されている方や自社商品が該当するか判断できない方は、最寄りの税関や通関士などに問い合わせてみてもいいかもしれません。