繊維産業の海外シフト化が進む中で、糸や生地、縫製品などの輸出入が当たり前の時代になってきました。輸出入の際に、避けては通れない関税。アパレル業界の関税のしくみとはどのようなものがあるのでしょうか?関税軽減についても調べてみました。
関税の仕組み
WTOとは?
WTO(世界貿易機関:World Trade Organization)とは、貿易に関する一般的なルールを定めた国際的な機関で、1995年1月1日に設置されました。WTOが設置された目的は、「公正な貿易取引によって世界経済の発展に寄与すること」で、国際貿易を行う上で欠かせない重要な役割を担っています。
WTO加盟国は、2021年現在で164か国が加盟しています。日本の貿易対象国の80%以上は、このWTOに加盟しています。ほとんどの取引国が加盟しているため、公平な国際ルールが適用されますが、万一WTO非加盟国と取引される場合は、ルールを事前に細かく確認する必要があります。
WTO発足により、具体的に下記の内容が強化されました。
- 既存の貿易ルールの強化
特定の物品(農業、繊維)の貿易に関する協定を作成。
国際貿易のルールに関する既存の協定を改正して内容を拡充。
- 新しい分野のルール策定
物品の貿易に加え、サービスの貿易に関する協定を作成。
貿易に関連する知的所有権や投資措置に関する協定を作成。
- 紛争解決手続の強化
統一された紛争解決手続を採用。
貿易紛争に対してWTO紛争解決手続によらない一方的措置の発動を禁止。
紛争解決手続が迅速・円滑に進行するよう手続の実効性を強化。
パネル(小委員会)報告の法解釈につき再審査を行う常設の上級委員会を設置。
- 諸協定の統一的な運用の確保
附属する物品の貿易に関する多角的協定、サービスの貿易に関する一般協定、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定、紛争解決に係る規則及び手続に関する了解等の協定を一括受諾の対象とし、加盟国の権利義務関係を明確化。
(参考文書:WTOとは|外務省 (mofa.go.jp))
WTO協定税率(MFN税率)
WTO協定税率は、別名、MFN税率ともいいます。WTO加盟国間で適用される税率のことで、加盟国間では原則としてこの税率が適用されます。ただし、EPA(自由貿易)やFTA(自由貿易協定)、PTA(優遇貿易協定)などの貿易協定、通商協定によって関税率の優遇を受けられるケースがあります。その場合は、MFN税率よりも安い税率を設定できます。
テキスタイルの関税優遇
EPA(自由貿易)
EPA(自由貿易)は、締約国間の交流や経済成長を活発させるために、作られたしくみです。EPA対象商品であれば、WTOで定められる関税よりも、安い税率で輸入することができます。日本は、現在17の国とEPAを締約しています。日本のEPA締結国及び協定内容は下記の通りです。
<二国間協定>
日インド協定
日スイス協定
日ブルネイ協定
日メキシコ協定
日インドネシア協定
日タイ協定
日ベトナム協定
日モンゴル協定
日オーストラリア協定
日チリ協定
日ペルー協定
日シンガポール協定
日フィリピン協定
日マレーシア協定
<多国間貿易>
日アセアン協定
(シンガポール・インドネシア・ベトナム・フィリピン・ブルネイ・
ラオス・カンボジア・ミャンマー・タイ・マレーシア)
繊維もEPAの関税優遇の対象であり、締結国間と条件を満たせば、関税軽減を受けることができます。縫製工場の多いベトナム・タイ・カンボジアともEPA協定を結んでいるため、貿易をする上で関税優遇を受けられるメリットがあります。相互無税などのかなり大きな関税優遇もるので、条件に該当すれば、ぜひ利用したい制度です。EPAを受けるにあたっては、商工会議所で原産地証明書と呼ばれる産地を証明するための証書を発行して、税関に提出する必要があります。
生地でEPAを受けるためには、輸出の品目ごとに細かい条件が定められています。条件未達のために、例え締約国間での輸出であっても、EPA制度を受けられないこともあるので、原材料の指定など注意深く条件確認する必要があります。
関税暫定措置法 第8条(通称:ザンパチ)
関税暫定措置法 第8条(通称:ザンパチ)とは、「加工または組み立てのため輸出された貨物を原材料とした製品の減税」と定義されています。日本から原材料を輸出して、それを海外で加工・組み立てした製品を輸入する場合に、原材料分の関税を軽減することで、国産原材料の利用を促し、国内産業を活性化させる目的のために作られた関税法です。繊維もこのザンパチの対象で、優遇を受けられる制度です。
例えば染色した生地を輸出して、海外で縫製し、その縫製品を輸入する際に、染色した生地分(縫製のために輸出した生地)の関税を免除してもらえるのです。ザンパチは輸出する原材料を使用した製品・完成品を、日本に輸入してくることが前提条件となります。
輸入を行うアパレル企業は、EPAもしくはザンパチのいずれか関税軽減が高い方を選択して利用しています。一般的には、EPA対象商品であれば、相互無税などの大きな関税節約になるケースが多く、ザンパチはEPAの対象とならない場合に利用される保険的な制度として利用されることが多いようです。
関税定率法第17条(再輸出免税)
関税定率法第17条とは、加工のために輸入し、加工後輸出される製品に対する輸入関税の免除制度です。日本の加工貿易の振興や文化学術水準の向上などの観点から、国内産業に影響を与えないものや、国内で消費されないものへの関税を免除する目的で制定されました。
関税定率法第17条の免税要件は下記の通りです。
- 関税定率法第17条第1項第1号から第11号に掲げる貨物であること
- 輸入の許可の日から原則として1年以内に再輸出されるものであること
関税定率法第17条の対象商品は下記の通りです。
(繊維に関連する対象項目のみ抜粋)
- 精錬、漂白、起毛、染色整理または撚りを施すために輸入する糸類、織物類およびその製品
- 糸抜、かがり、刺しゅう、または縁縫いを施すために輸入する織物類およびその製品
- このほか、加工貿易の振興に資するために必要と認められる貨物で、財務大臣が指定したもの
例えば、生機を輸入して、染やコーティング・ラミネート加工なども17条対象として取り扱われています。
再輸出免税を受けるためには、海外の機屋から輸入した生機の通関申告をする際に、17条対象商品であることを申請する必要があります。その場合、即時で関税を支払う必要がなくなります。17条対象として仕入れた生機は、1年以内に加工して輸出する必要があります。
関税の支払い対象は、期限の1年以内に消費されなかった生機や、サンプルや加工不良ロスなどの輸出されずに国内に残った生地に対して課税対象と見なされます。これらの課税対象に対する処理は、「用途外申請」と呼ばれ17条として消費されなかった数量に対する関税が計算され、納める必要があります。
まとめ
WTO:貿易に関する一般的なルールを定めた国際的な機関
WTO協定税率(MFN税率):WTO加盟国間で適用される税率環境
テキスタイルの関税優遇
- EPA(自由貿易)
- 関税暫定措置法 第8条(通称:ザンパチ)
- 関税定率法第17条(再輸出免税)
テキスタイルでの関税優遇制度はたくさんあります。それぞれ細かい条件が定められているので、注意深く確認しましょう。関税の有無で、利益も大きく変わりますので、確実に関税軽減の優遇を受けられる制度を利用しましょう。