長くなった夏に最適な涼しい生地、熱中症に負けない素材選びとは?

年々、夏の暑さは厳しさを増してきており、熱中症で、毎年数万人以上の人が救急搬送されるほどになっています。温暖化によって、異常なほど暑い気温を記録し、また夏の長さも長くなってきています。そのため、アパレルの販売戦略も従来の四季に合わせたものから、春と秋が飛んでしまうことから夏と冬の四季ならぬ「二季」として戦略を考えるアパレルや一年の半分が夏であり、「春・夏・夏・秋・冬」の「五季」でMDを組むアパレルなど各社、試行錯誤しています。

アパレル製品に冷却性能をつけた空調服は作業着などで瞬く間に浸透しましたが、素材選びでも着て涼しい生地・冷却性能がある生地が求められています。

今回は熱中症に負けない「清涼感のある素材選び」について紹介したいと思います。

目次
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夏向けの涼しい生地、熱中症に負けない素材

熱中症は、体力面や環境も大きな要因ですが、服装も熱中症を引き起こす要因の一つになりえます。反対に言えば、服の素材を選ぶことで熱中症の対策をすることができます。服は、おしゃれの装飾要素や体を覆い隠す他にも、外的危害から守ったり、体温を調節したりと、生きていく上では欠かせない存在です。

さらに服装を見直すことで、熱中症対策以外にも環境面や健康面にもメリットを生み出すことが期待できます。

例えば、最近の電力不足の深刻化は耳にしたことがあるかと思います。夏場はクーラーなどによって消費電力が増えるので、特に電力不足が問題視されていますよね。電力不足問題は日本にとどまらず、中国でも工場の稼働停止や、有数な夜景スポットで知られている観光地でも夜の消灯が行われるなど、世界的な問題に発展しています。

涼しい素材の生地を身にまとえば、冷房の節約となり、コスト面・エネルギー面・環境面でもメリットがあるでしょう。さらに冷房により冷え過ぎると、自律神経が乱れ、身体のだるさや夏バテにも繋がります。熱中症に負けない健康的な身体作りをサポートするには、服装選びは重要です。

熱のこもりやすさや、衣服内のムレやすさによって、熱中症にかかる要因となりえます。通気性が高く、ムレにくい素材は、熱中症の軽減に繋がるでしょう。

天然素材

リネン(麻)

リネンは、コットンの2~4倍とも言われるほど吸水性に優れた繊維です。汗をかいてもしっかり吸いとってくれるため、汗ばむ夏の衣服によく用いられます。さらに、速乾性も高いことから、汗を吸収して素早く乾燥する繊維です。

また繊維の中が空洞になっているため、通気性がよく、放熱性も高いので、衣服の中の熱がこもらないように放出し、快適に保ってくれます。水分吸収率が高いことから、触るとひんやりとクールタッチに感じられます。リネンは、猛暑には最適な素材の一つと言えるでしょう。

コットン

一般的には、リネンには劣るものの、コットンも優れた吸収性で知られている素材です。衣料品以外にも、医療用に使用する脱脂綿や、化粧水を浸透させて使うコットンなど、その優れた吸水性で使用用途は多岐に渡ります。水分の放出性にも優れているので、吸汗発散性があるとして、直接肌に触れるインナーやTシャツなどはコットン製で作られているものが多くあります。

シルク

シルクにも優れた吸湿性と放湿性があります。汗を吸収して素早く放出するので、快適な着心地は折り紙付きです。シルクは、皮脂の吸収性もよく、油っぽい汗でも吸収して放出してくれます。熱伝導率が低いので、夏は涼しく、冬は暖かく着られるため、年間を通して活躍する素材です。またシルクに含まれるアミノ酸結合のたんぱく質繊維が、紫外線を吸収して変質する性質を持つため、UVカット機能も持っています。

レーヨン

レーヨンは再生繊維に該当して、天然繊維の要素と合成繊維の要素を持ち合わせる繊維です。レーヨンは木材パルプを原料に作られ、コットンより高い吸水性を持っていると言われています。水分の保有率が高い生地や熱の拡散性の高い生地は、触れるとひんやりとした冷感があります。

韓国では、「豊基人絹」(豊基レーヨン)が夏用の素材として人気があります。軽く涼しく、通気性や吸汗速乾に優れ、肌触りがさらっとしています。冷蔵庫繊維・エアコン繊維と呼ばれているほどです。

ただし、レーヨンは、水分吸収率が高いゆえに、品質の安定性が欠ける点がデメリットとしてあげられます。水を吸収すると縮みやすく、強度が下がる傾向があります。

ウール

秋冬素材と思われているウールですが、実はサマーウールという呼び名があるほどで、強撚糸使いのトロピカルなどの組織にしたウールはシャリっとした風合いとなり夏用の素材としてもよく使われています。ウールは繊維の中に空気を多く含むことができるので、熱伝導率が低く、夏は涼しく、冬は暖かい「天然のエアコン」とも呼ばれています。

ウールは、吸湿性も高く、体が発する水蒸気を吸収し、大気中に発散させる湿度を調整することができます。また、毛細管現象によって汗を吸い上げてくれるので、ベタつかず快適にすごすことができます。毛細管現象とは、細い管状物体(毛細管)の内側の液体が、管の中を移動する物理現象です。この機能によって、汗などで生地に付着した水分を生地の外側に排出することができます。

素材にこだわったブランドとして知られているコリーナのウールTシャツは長い期間快適に着ることができ、繊維業界でもファンが多い商品です。

また日本毛織が開発したウールの繊維束の内側にフィラメントを包み込んだ交撚糸NIKKE AXIOで作られたTシャツもクラウドファンディングで人気を博しました。

浦沢直樹氏の人気漫画、マスターキートンにスーツを着用した主人公が砂漠に取り残されてしまいますが、実はスーツは砂漠の暑さから身を守るのに適しており、厳しい暑さを耐えるというシーンがあります。このエピソードはウールが昔から夏にも向いている素材であることが知られているということを表していると思います。

その中でもモヘアは、シャリ感・通気性・形状維持性に優れ、夏のスーツ生地として昔から人気があります。

機能素材

吸水速乾(吸汗速乾)機能生地

合成繊維は、価格や大量生産しやすい点から、衣料品の大きな割合を占める繊維です。しかし、合成繊維のほとんどは、吸湿性は持ち合わせていないので、汗を吸収しにくく、衣服内のムレやすさが懸念されます。そんな合成繊維でも、吸水速乾加工を施すことで、素早く汗を吸収して外に発散することができるので、快適な衣服環境を作ることができます。

東レの浴衣用生地の定番素材、「セオアルファ®」も吸水速乾の機能をもつ夏向けの素材となっています。

基本的な原理としては、毛細管現象を起こさせることによって、吸水速乾機能を実現しています。

ユニクロのエアリズムは、メンズとレディースで生地を使い分けているのですが、メンズは東レと共同開発したカチオン可染型ポリマーを使った極細のマイクロファイバーが使われています。この極細のマイクロファイバーが毛細管現象を起こし、吸水速乾の機能を実現しています。極細のマイクロファイバーは染色が難しいのですが、カチオン可染型ポリマーを使うことで染色性を向上しています。

またエアリズムのレディースも旭化成のキュプラと東レのマイクロナイロンを仮撚りした生地を使用しており、マイクロナイロンで毛細管現象を起こし、吸水速乾機能を実現しています。

COOLMAX®は、紡績時に吸収速乾を持たせるような糸形状を工夫しています。また、生地を表側と裏側(肌側)で異なる組織構造にして毛細管現象を起こさせる編地にした東レのフィールドセンサーなどとさまざまなやり方で機能を持たせることができます。

接触冷感生地

接触冷感とは、その名の通り、触れると冷たく感じる素材です。レーヨンやキュプラなど再生繊維は、水分の保有率が高い生地や熱の拡散性の高い生地は、触れるとひんやりとした冷感があります。水分を吸収して拡散する際に、気化熱を発散することで、冷たく感じることができるのです。

素材の特性以外にも、後加工により、冷感機能を持たせることもできます。後加工の場合は、キシリトールなどの剤が使用されることが多いです。キシリトールガムを食べたことがある人は、キシリトールの清涼で爽快感を感じられたのではないでしょうか?キシリトールは、水分と反応する際に、熱を奪う吸熱反応が起きます。それにより、ひんやりした冷感が出るのです。

UVカット生地(太陽光遮蔽性生地)

太陽光を遮るUVカット機能生地も衣服内温度を下げる機能があります。太陽光には可視光線、赤外線、紫外線が含まれます。紫外線を吸収・乱反射させる効果がある酸化チタンや特殊セラミックの微粒子を繊維の中に練り込むことで太陽光を透過しないようにしています。

ユニチカトレーディングの「サラクール®」や旭化成の「キュアベール®S」、東レの「ボディシェル®」などが有名です。さらに太陽光を乱反射させる機能は透けにくくする「透け防止機能」もあるため、下着などが透けてしまうのが気になる夏の薄地淡色素材にもよく採用されています。

強撚糸(ハイツイスト)

撚糸回数が少ない(甘撚り)と柔らかくふくらみのある風合い、撚糸回数が多い(強撚)と締まって、硬くなる性質があります。強撚糸使いで生地を作ることで、硬くシャリ感のある風合いになり、特にミセスブランドの盛夏企画などで昔からよく採用されています。強撚糸使いのボイルなどトップスの定番素材も多いです。

天然素材の接触冷感素材で人気のアイスコットンですが、こちらもスイスのスポエリー社の特殊紡績で製造された強撚糸使いの生地の一種になります。

組織

凹凸のある組織にすることで、肌に接する面積を減らし、快適な夏向けの素材にするモノづくりも古くから行われてきました。

また、梳毛セットアップなどでよく使われる平織生地「トロピカル」はもともと「熱帯の」という意味です。つまり、熱帯向けの軽量ウール生地を表しています。

コードレーン・・凹凸が肌との接触面を減らし、汗をかいてもべたつかない

楊柳 ・・表面にシボ(凹凸)があり、肌離れがよい

ボイル・・ローンより柔らかく透け感がある

サッカー、シアサッカー

ムレやすい生地の特徴

反対にムレやすい生地の特徴とは、どのような素材なのでしょうか?

黒・濃色の服

炎天下の下や直射日光を長く浴びる場合は、服の色にも気を付けた方がいいでしょう。黒や濃色は、紫外線カットには優れた効果を発揮しますが、太陽からのエネルギーの反射率が悪く吸収してしまうので、熱がこもりやすくなります。熱中症のリスクを減らすには、白や淡色の色を着た方が、いいでしょう。

高密度な生地

密度が高くなると、通気性が下がるので、熱がこもりやすくなります。メッシュ生地などの通気性のいい組織の生地は、熱がこもらないので、パーツ使いなどの工夫がされた製品は夏に多く売り出されています。

体に張り付く生地

体に密着度が高い生地は、空気が生地と体の間に入らないため、熱がこもりやすくなります。ストレッチ性が高く、密着するような縫製スタイルの服は暑い夏には避けた方がいいでしょう。反対に、凹凸感のある素材は、空気が入り、べたつきにくい生地となります。

まとめ

POINT

熱中症と服装選び

  • 服:おしゃれの装飾要素や体を覆い隠す他にも、外的危害から守り、体温を調節する役割がある

熱中症対策となる素材

  • 天然素材(リネン・コットン・シルク・ウール)
  • 吸水速乾機能生地
  • 接触冷感生地
  • UVカット生地
  • 強撚糸
  • 組織

ムレやすい生地の特徴

  • 黒・濃色の服
  • 高密度な生地
  • 体に張り付く生地

服装は気軽に取り入れられる熱中症対策になります。熱中症は最悪のケース、死に至る可能性のある恐ろしい病気です。熱中症に打ち勝つにも、食事・水分補給はもちろん、服装や素材選びにも注目してみてはいかがでしょうか?

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