繊維業界と言えば、環境汚染産業として不名誉な位置づけにあることをご存じの方は多いと思います。
地球温暖化の原因となる温室効果ガスの主な割合を占めるCO2の排出量は、石油産業に次いで2番目に多い排出量が発生しているのは有名ですよね。
それに加えて繊維業界は、水の消費量も非常に多いことで知られています。水の大量消費による環境への被害は計り知れません。
今回は、繊維業界と「水」との関係についてまとめていきたいと思います。
繊維業界と水の消費量
繊維業界にとって水は欠かせない存在ですが、その消費量が問題視されています。循環型経済を提唱するイギリスの「エレン・マッカーサー財団」のレポートによると、繊維業界での年間での水の消費量は、年間約930億立方メートルと言われています。東京ドームの体積は、124万立法メートルのため、東京ドーム75,000個分の水が、繊維製品の生産に年間使用されていることに値します。
日本は島国で海に囲まれているので、水不足を実感することはないでしょう。しかしながら、世界では人口の40%である約36億人にも上る人が水不足に直面していると推計されています。水は人間以外の生命維持にも欠かせず、水不足が続く限り、動物や植物の絶滅も避けられないでしょう。それほど水は貴重な資源なのです。個人による普段の生活での節水はもちろん、膨大な量を消費する繊維業界も水の消費量を見直していかなくてはなりません。
原料:コットンに関わる水の使用
原料を生産するにも水が使用されます。特に水の消費量が多いと言われているのが、「コットン栽培」です。コットンの栽培には、想像以上に多くの水が使用されています。コットン栽培によって、かつて世界で4番目に大きい塩湖であったカザフスタンとウズベキスタンにまたがるアラル海が、20分の1にまで縮小するほど大量の水が消費されていました。面積にすると6万8,000km2(1960年代時)から3300km2(現在)の減少で、東北地方全体の面積が鳥取県の面積まで減ったことになります。たった40年の間に、コットン栽培によってこれだけの水が消費され、減少してきたのは驚きではないでしょうか?
コットンの水の消費量は、栽培する環境によって大きく左右されます。コットンの栽培地の99%がアジア・アフリカや南アメリカなどのコストが安い貧しい国で栽培されています。コットン農家の労働環境は、過酷な上に低賃金で働くといった劣悪な環境で、十分に教育が行き届いていないまま栽培に関わっていることも多くあります。十分な知識と管理がされないままだと、水の過剰消費がされていることがあります。土壌の環境を整え、水の使用を管理しないことが、水の大量消費に繋がり、周辺の干ばつや水不足に発展しているのです。
改善案
栽培時に大量の水が消費されるコットンですが、オーガニックコットンなどの環境負荷を減らしたコットンへ切り替えることで水の消費量を抑えることができます。オーガニックコットンの場合は、約90%の節水ができるとされています。オーガニックコットンでは、雨水の利用が推奨され、さらに土壌の管理や農薬の制限などがしっかり管理されているので、健康な土壌環境を保ち、無駄な水の消費を避けることができます。
製織工程での水の使用
特に製織の中でも、「ウォータージェット織機」を使用する場合は、水の力を利用して糸を打ち込むため、水の消費がされます。
改善案
製織での水の消費量を抑えるには、エアージェット織機の使用が挙げられます。ウォータージェット織機では、水を利用して製織されますが、エアージェット織機は空気の力を利用して糸を飛ばします。ウォータージェット織機とは違い水を使用しないほか、濡れた生地を乾燥させる必要もないので、節水はもちろん乾燥させる必要がないため、乾燥における電気エネルギー消費を節約することもできます。
生地生産に関わる水の使用
水の使用でイメージしやすいのは染色時ではないでしょうか?
生地の染色には、生機(織り機や編み機で、出来上がったままの生地)の汚れやサイジング剤と呼ばれる糊を落として不純物を取り除く「精練(せいれん)」と呼ばれるいわゆる”洗い工程“が施されます。精練では大量の水が消費されます。
精練後、生地染の場合は染色窯に大量の水が使用され、染料を水に溶かして染色されます。染色後は、色移りや染料が抜けださないように染色生地を洗うことがあり、そこでも水の使用がされています。染色をするには、精練・染色・洗いと多くの段階で、大量の水が消費されます。
改善案
精練や染色を回避する方法としてはいくつかあります。
生成り(キナリ)生地の使用
生成りとは、漂白や染色をせずに、手を加えないそのままの状態の生地です。精練・染色が不要となり、生地本来の味わいを楽しむことができます。
原着糸の使用
原着糸とは、原料自体に顔料や染料を混ぜて着色した糸を指します。主にナイロンやポリエステル、アクリルなどの合成繊維に、顔料を入れて製造されます。原着糸の製造は、ポリエステルなどの原料となるベースチップであるペレットに着色剤を含有するカラーマスターチップと呼ばれる顔料を混ぜて作られます。これらを混合して、溶かして紡糸することで、色のついた原着糸が出来上がります。原着を使用することで、精練(サイジング剤(糊)を製織時に使用する場合は剤を落とすために染色は省いても精練することもあります。)や染色の工程を省くことができます。
先染糸を使用する
先染とは、繊維や糸の状態で染める染色法です。先染では水の消費はありますが、生地に織り上がった状態よりも大幅に水の消費を減らすことができます。糸の状態で染めた方がコンパクトな窯で染色することができるので、水の消費を抑えられます。
プリント加工する
プリントは染色に比べて水の消費量を抑えることができます。プリントを均一に載せるためには、不純物やサイジング剤をきれいに落とす必要があるため、精練工程は欠かせません。それでも、窯に水と染料を入れて染色する後染めに比べて、水の消費は削減できます。
まとめ
繊維業界と水の使用量
- 繊維業界の水の消費量は年間約930億立方メートル
- 世界で40%の人が水不足に直面している
原料:コットンに関わる水の使用
- コットンの栽培に大量の水が消費されている
- 改善案:オーガニックコットンへの切り替え
製織工程での水の使用
- ウォータージェット織機による水の消費
- 改善案:エアージェット織機への切り替え
生地生産に関わる水の使用
- 精練・染色による水の消費
- 改善案:生成り(キナリ)生地・原着糸・先染糸・プリント加工
水不足は世界中で今すぐ取り組むべき大きな問題です。さまざまな産業の中でもとりわけ水の消費量が多い繊維業界では、多くの企業が節水へ取り組んでいます。全くの0にすることは不可能ですが、貴重な水資源の消費量を少しずつ抑えていくには、一人ひとりの意識と努力が必要不可欠です。無駄なモノを作らない・買わないなど、すぐに取り組めることを見直していきましょう。