「カーボンニュートラル」というワードを最近頻繁に耳にするようになりました。カーボンニュートラルとはどのようなものなのでしょうか?また、アパレルでのモノつくりでどのようなカーボンニュートラルの取り組みがされているのでしょうか?今回はカーボンニュートラル繊維としても知られる「ポリ乳酸繊維」にも注目してみたいと思います。
カーボンニュートラル(Carbon Neutral)とは?
カーボンニュートラル(carbon neutral)
カーボンニュートラルとは、「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」と定義されています。
これは具体的にどのような状態を指すかというと、「植物または植物由来の燃料を燃焼する際に発生するCO2を、原料となる植物が成長過程でCO2を吸収しているため、ライフサイクル全体(生産から消費まで)でみるとCO2排出量は増加することなく相殺され、実質ゼロ(ニュートラル)になる」という考え方です。
温室効果ガスは、ご存じの通り、地球温暖化の進行の大きな要素として、認知されています。地球温暖化や地球上で起こる異常現象を防ぐためにも、日本政府は2020年10月に、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すこと」を宣言しました。この温室効果ガス・CO2を減らす活動は、日本だけに留まらず、全世界での課題として各国がカーボンニュートラルやCO2を排出しない仕組みに力を入れています。
アパレル製品は、原料の製造から販売までに複雑で長い工程がかかるほかにも、膨大な資源とエネルギーを使用して製品が作られています。そのため、アパレル産業全体のCO2の排出量は非常に多いため、早急なCO2排出量抑制の対応が求められています。
ポリ乳酸(PLA)繊維とカーボンニュートラル
ポリ乳酸繊維は、植物由来の再生可能資源から作られています。主にとうもろこしなどに含まれるデンプンから作られる乳酸を重合することで、ポリ乳酸が産み出され、繊維状に紡糸することで作られています。
石油や石炭などの化石資源を使わないため、環境負荷の少ないマテリアルと言われています。そして植物由来の資源を使用しているため、植物が成長する際に光合成が行われます。光合成で二酸化炭素と水を使って、養分と酸素を作り出します。ポリ乳酸(PLA)を焼却や分解する際に他のプラスチック製品同様に二酸化炭素は大気中に放出されますが、植物が成長する過程で二酸化炭素を消費することから、差し引きするとCO2の排出量がゼロになると考えられています。
ポリ乳酸(PLA)の魅力・メリットとは?
またポリ乳酸の環境へのアドバンテージは、カーボンニュートラルだけにとどまりません。同じく植物由来のコットンは、栽培時に大量の水を使用することが環境負荷に繋がる可能性もあります。リネンなどの天然繊維は、天然繊維ならではの手触りや性質もありますが、耐久性などの点ではプラスチック繊維の方が優位に立つでしょう。それぞれの繊維にメリット・デメリットがありますが、ポリ乳酸繊維はどのような魅力があるのでしょうか?
生分解性がある
ポリ乳酸繊維は、生分解性があることでも知られています。通常のプラスチックは、自然界で分解されることなく残ってしまうため、廃棄する際は焼却処分などの対応が必要です。ポリ乳酸繊維は、生分解性があるため、土壌に埋めることでバクテリアや菌類などによって分解されます。
有限資源の消費を抑える
プラスチックは、通常石油などの化石資源を原料に作られます。化石資源は有限資源のため、いつかは資源が枯渇してしまいます。しかし、ポリ乳酸繊維である植物由来の原料は、計画栽培を行うことで乱獲や土壌負荷を抑えながら、再生することが可能で、再生可能資源に位置付けられています。再生可能資源を使用することで、有限資源の消費を抑えることに繋がります。
製造工程でのCO2排出量が抑えられる
カーボンニュートラルでの相殺はもちろんですが、ポリ乳酸繊維の製造時に排出するCO2の排出量は、石油由来プラスチックを製造する時と比較して少なくなります。そのため、合成繊維を1から生産するのと比較すると、大きなCO2排出量の削減に繋がります。
安全性が高い
ポリ乳酸繊維は、人体にも存在する乳酸を原料に作られているため、安全性が高い素材です。化学繊維は、人によってはかゆみを感じたりアレルギー反応を起こしたりする方もいますが、ポリ乳酸繊維は自然由来の原料から作り出しているため、化繊アレルギーの方は症状が軽減されるかもしれません。
抗菌性がある
ポリ乳酸繊維の乳酸の働きのおかげで抗菌性を持ち合わせています。そのため、加工で抗菌剤を使用しなくても、安全かつ抗菌性がある点は、他のプラスチック繊維にないアドバンテージとなります。
加工性が良い
ポリ乳酸は、従来、物性面と染色性に課題があり、なかなか実用化されませんでしたが、この問題を改善する改質剤の開発が進み、 アパレル製品など幅広い製品への採用が始まっています。
使用用途の幅が多い
繊維として用いられて、アパレル用途に使用されることはもちろん、サステナブルプラスチックとしてあらゆる製品にも使われています。例えば、食品包装容器やフィルム・シートなどにも使われています。食品に直接触れる容器としても用いられるため、体内に取り込んでも問題がなく上記でも取り上げた通り、安全であることが連想できますよね。
コットンやリネンなどの植物由来の原料は、ここまで使用用途の幅は広くありません。どれだけ環境へ貢献するマテリアルを開発することができても、使用用途が制限されていると、地球環境全体での貢献性は小さくなってしまいます。使用用途の幅が広がることで、ポリ乳酸は環境対策へ大きく貢献してくれるポテンシャルを持っています。
ポリ乳酸(PLA)の課題・デメリットとは?
染色が難しい
ポリ乳酸繊維は高温に弱いという特徴があります。そのため、濃色の染色が難しく、黒などの色展開ができず、ファッション分野ではなかなか採用されませんでした。
バイオワークス(bioworks)社は、瀧定名古屋などとの取組によって、改質PLAプラックス(PlaX)をウールなどほかの繊維との交織や混紡などの素材開発を行うことでポリ乳酸繊維の欠点を補い、ファッション用途での展開を進めています。
化学専門商社のハイケムも同様に、小野莫大小工業、タキヒヨーなどとの取組で素材開発を行っています。
耐用年数が短い
ポリ乳酸繊維の特徴として、「生分解性がある」という点を挙げましたが、同時に裏を返せば、耐用年数が短いということでもあります。ユニチカは、PLA繊維「テラマック(TERRAMAC)」を20年以上前から取り扱っていますが、染色が難しい点と合わせて、ティーバッグやボディタオル、土嚢袋などの産業資材用途での展開が中心です。
価格が高い
ポリエステルなどと比べると当然、割高なため、まだまだ一部のブランドにしか採用されていません。
まとめ
カーボンニュートラル(carbon neutral)
- 温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること
ポリ乳酸(PLA)繊維とカーボンニュートラル
- 植物由来(主にとうもろこし)の再生可能資源から作られる
- 原料である植物が成長する際に光合成で吸収されるCO2と焼却時に排出するCO2が相殺される
ポリ乳酸(PLA)繊維の魅力
- 生分解性がある
- 有限資源の消費を抑える
- 製造工程でのCO2排出量が抑えられる
- 安全性が高い
- 抗菌性がある
- 加工性が良い
- 使用用途の幅が多い
ポリ乳酸(PLA)の課題
- 染色が難しい
- 耐用年数が短い
- 価格が高い
2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするために、各企業・個人が一丸となってCO2削減に取り組まなければ達成できない目標です。ポリ乳酸繊維は、カーボンニュートラルとしてCO2排出抑制に貢献するほか、多くの環境面へのメリットのある繊維です。今後も注目される繊維であることは間違いないでしょう。