同じ素材で、なぜこんなに触り心地や見た目が違うのだろうと思ったことはありませんか?
例えば、風合いが全然違う服なのに、タグの表記には同じポリエステルで出来ていることに違和感を感じた経験がある方もいるかもしれません。アパレルの多くを占める、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維ですが、糸自体の加工バリエーションも多く、同じ原料でも糸の加工でさまざまな仕上がりになります。
今回は、糸加工の種類について、調べてみました。
無加工糸・加工糸
糸の種類は大きく、加工糸と無加工糸に分けられます。
無加工糸は、「生糸(FDY)」と呼ばれ、加工糸にはさまざまな種類の加工が施されます。
生糸(FDY: Fully Draw Yarn)
生糸(FDY)は、無加工糸の糸を指します。ノズルから紡糸された糸そのままのフィラメント糸で、撚糸や仮撚り加工を施さない真っ直ぐストレートな糸です。特別熱などを加えて加工を施さないため、糸自体の強度は強くなります。スムースな触り心地で、光沢感のあるサテンなどの織り方によく使用されています。使用用途は、アパレルや家具、資材などの多岐にわたります。
仮撚り加工糸(DTY: Draw Textured Yarn)
化学繊維の*熱可塑性を利用してナイロンやポリエステル等のフィラメント糸に、バネのようなクリンプ形態を与えた、かさ高性や伸縮性を付与した糸です。糸に撚りをかけた状態で加熱し、冷却することによって、撚り形状を固定させて作られます。基本的な工程としては、「撚りをかける→熱セットする→撚りを戻す→(熱セットする)→冷ます」を仮撚り機械で高速で行われます。
*熱可塑性(ねつかそせい)とは
クリンプ形状を持たせることで、ふんわりとやわらかい触り心地になることと、バネのような形状から伸縮性を持たせます。伸縮性は、撚り加工や回転数によって変わるので、クリンプのかさ高性が高ければ高いほど、より伸縮性のある糸ができます。このクリンプ性のある糸が、毛糸のように見えることから、「ウーリー糸」とも呼ばれます。
仮撚り糸は、クリンプ性からまっすぐな生糸に比べて、マットで光沢感が控えめなダル感のある印象になります。また、シワになりにくく、生糸に比べて生地に厚みが出るので、ハリコシがあります。ニットで使用される糸は、この仮撚り糸が多く使用されています。
タスラン加工糸(ATY:Air Textured Yarn)
タスラン加工糸は、英語ではATY: Air Textured Yarnと表現されます。アメリカのデュポン社が開発した加工技術です。タスラン糸は、2本の糸で構成され、芯糸と浮糸(カバリング糸)から成ります。芯糸にカバリング糸を巻き付けて作られるのですが、撚りをかけないでノズルから圧搾空気を噴射して、フィラメントに吹き当てて、フィラメント糸に小さいループをつくり強く結束させて嵩高性を得る加工です。
無加工糸に比べて、かさ高性があり、短繊維のようなコットンタッチな肌触りになります。化学繊維の耐久性を持たせながらも、コットンのような風合いを出せることから、ファッションだけに留まらずアウトドアやスポーツウェアにも愛用される加工糸です。合繊繊維でありながらも、ナチュラルタッチで安見えしないので、高級ゾーンのアパレルなどにも使用されます。
経糸と緯糸の両方にタスラン糸を使用して織ることは、高度な織り技術が必要です。かさ高性のある糸のため、緯糸を打ち込む際に、かさ高のある経糸とぶつかり欠点などが発生しやすくなります。海外でも徐々に対応はしてきているものの、日本の高い織り技術に並ぶほどの品質で織ることができる機屋はそこまで多くありません。
糸の光沢感の違いとは?
糸の光沢感と種類とは?
糸の光沢感は大きく分けて3つあります。
- 「ブライト(BR, Bright)」
- 「セミダル(SD, Semi Dull」
- 「フルダル(FD, Fully Dull)」
光沢感が強い順から、「ブライト(BR, Bright)」、「セミダル(SD, Semi Dull」、「フルダル(FD, Fully Dull)」となります。
Dullは英語で、「鈍い・ぼんやりした」と訳されます。一番ダルが強いフルダルは光沢感が低く、セミダルは一番光沢感の高いブライトとフルダルの中間を指します。市場には、中間的な存在のセミダルが一番多く流れています。
ブライト・セミダル・フルダルの違い
光沢感を消すために、セミダルとフルダルには、酸化チタンを含有させることで、光沢感を消します。酸化チタンの含有量が一番多いのがフルダルで、光沢感が一番強いブライトは、酸化チタンを含有しません。セミダルには、含有量の定義がないため、ブライトよりのセミダルも存在すれば、フルダルに近いセミダルも存在します。特にセミダルの光沢感は、糸加工や織組織にも左右されますので、実際に上がったものを見るまで、どの程度の光沢感になるか判断することは難しいでしょう。
また、糸の強度事態にも若干の差異があり、酸化チタンを含まないブライトが、一番糸強度が強いです。含有量の多いフルダルは、不純物が多く含まれるため強度が弱くなる傾向にあります。セミダルは、その2つの中間ですね。
ビーカーで色合わせをした際に、なかなか思った通りの色に仕上がらない場合は、この糸の光沢感が原因かもしれません。フルダルに高い彩度を求めても、難しいでしょう。色を入れれば入れるほど、堅牢度は悪くなるので、洗濯時の色移りや色落ちなどの新たな問題が出てきます。糸自体の変更が必要となるかもしれません。
強度の弱いフルダルにも、アドバンテージはあります。それは、UVカット性能が高いことと、透けにくいことです。下着などが透けにくいことから、T-シャツやパンツ向けにも向いています。特に夏は薄着で一枚ものの服を着る機会も多いので、透け防止とUVカット効果のあるフルダルは、高い需要があります。マットでダル感のある印象も活かした、洋服作りもいいかもしれません。
反対にブライトは透けやすいので、春夏などの透け感のある生地を探しているなら、ブライトがマッチするでしょう。
まとめ
無加工糸
- 生糸(FDY: Fully Draw Yarn)
加工糸
- 仮撚り加工糸(DTY: Draw Textured Yarn)
- タスラン加工糸(ATY:Air Textured Yarn)
糸の光沢の種類
- 「ブライト(BR, Bright)」
- 「セミダル(SD, Semi Dull」
- 「フルダル(FD, Fully Dull)」
同じ素材でも、化学繊維の糸の加工のバリエーションの多さから、さまざまな見た目や風合いに変化します。まだまだ紹介しきれていない糸加工が、たくさん存在します。
ポリエステルだから、プラスチックタッチだなと諦めるのは早いです。化学繊維が持つ強度や耐久性、さらに安価で仕入れることができる面に加えて、糸加工で理想の触り心地と見た目を追求してみることもいいかもしれません。ちょっとした糸の形や作り方を工夫するだけで、全く別のものができあがるので、繊維は奥深く、面白いですよね。