アパレル業界の環境汚染が世間に認知されてから、各企業は思考錯誤しながら、環境配慮素材や循環型の生産への切り替えに力を入れるようになってきました。その動きの中で、最近は「生成り(キナリ)」生地の注目が高まっています。
今回は、「生成り」とサステナブルの関連について紹介したいと思います。
生成り(キナリ)とは?
生成り(キナリ)
生成り(キナリ)とは、漂白や染色をせずに、手を加えないそのままの状態を指します。“生成り=色の名前”と思っている方もいるかもしれませんが、生成りとは素材本来の状態を表しているのです。未晒しなどとも表現されます。
「ホワイト」「オフホワイト」「アイボリー」「生成色」と「生成り」の違い
「ホワイト」「オフホワイト」「アイボリー」「生成色」は全て色の名前であり、素材本来の状態を表す「生成り」とはイコールで結びつきません。
ホワイト
ホワイト(白)の色は説明も不要でしょう。純白やピュアホワイトなど、さまざまに表現されますが、ホワイトは混じりけのない真っ白な色を指します。生地の場合、無染色=ホワイト=生成りとは限りません。
オフホワイト
「オフホワイト」は、白に近い色ですが、白ではないという意味があります。真っ白とは異なり、少しだけグレーがかっていたり、黄味がかっていたりする色目を指します。純白ではなくナチュラルな色目をしているので、生成りと混同してしまうかもしれません。オフホワイトは、生地の状態ではなく色名として扱われているので、生成りの色のニュアンスを表現する際に、「オフホワイト」を使われるケースはあります。オフホワイトの色目に染料を使って染色することもあるので、必ずしも「オフホワイト=生成り」とは限りません。
アイボリー
アイボリーは、アイボリーホワイトとも呼ばれています。淡く黄色がかったやや灰味の白色で、オフホワイトよりは黄味が強い色味を指します。日本語では、「象牙色(ぞうげいろ)」とも呼ばれていて、その名の通り、象の牙のような色目に似ていることから名づけられています。この色味が、ナチュラルな天然繊維そのままの色味に似ていることがあることから、オフホワイト同様に、生成りの色を表現する色名のうちの一つとして表現されることもあります。こちらも、染色でアイボリー色を出すこともあるので、必ずしも「アイボリー=生成り」とは限りません。
生成色
生成り=色名ではないことは理解いただけたかと思いますが、ここでややこしくさせるのが「生成色」です。生成色は色の名前を表すので、イコール素材の状態を指す生成りではありません。しかし、生成色は名前の通り、生地の生成りに由来して名付けられました。
生成色は、英語では「ecru」で黄味がかった白色を指します。アイボリーにも近い色をしていて、柔らかさのある色味をしています。漂白前のコットンやリネンの色味をイメージした色です。
生成りのサステナブルと言われる理由とは?
生成りがサステナブルと言われる理由は、どのような点があるのでしょうか?
染色・漂白をしない
生成りがサステナブルと言われる最大の理由は、“染色・漂白をしない”ことです。生地の染色には、想像以上にエネルギー消費と水の消費が伴います。ポリエステルなどは130℃前後で高温・高圧の状態で染色されるので、水を高温まで温めたり、圧力をかける際に、大きなエネルギー消費と二酸化炭素が排出されます。これらの環境負荷を考慮して、近年では染色をしない生成りの生地に注目が高まっているのです。
また、染色する場合は、染料や薬品を水に溶かして染められるので廃液が出ます。染色や漂白をしない生成りは、廃液の処理の手間が省けて、水質汚染を防ぐことができます。
ナチュラル素材
生成りは生地に薬品を使った処理がされないので、身体負荷のないナチュラル素材とも言えます。人によっては、化学薬品の影響で、アレルギー反応が出たり、体がかゆくなることもありますが、加工での薬品が使用されないので、人体負荷が少ないと考えられています。
また、生地本来の風合いを楽しむことも生成りならではの魅力です。高熱で染色したり、加工を施すことによって、生地の風合いは素材そのままの状態と比べると大きく変わってしまいます。
自然な色味を楽しめる
生成りの中でも特に、コットンやリネンのような天然繊維の生成りの場合、原料が育った季節や環境によって、微妙に色が変わってくる可能性があります。生地によっては、不均一な色ムラや見た目になる場合もありますが、逆にナチュラル感やオンリーワンな生地としても視点を変えることができます。
リサイクル化しやすい
アパレル業界でもリサイクル化は進んでいますが、多くの場合は工場内で出た製織カスや品質不良などを起こしたBグレード品やCグレード品などの廃棄される生地から来たリサイクルだと言われています。ポリエステルの場合は、ペットボトルからのリサイクルも含まれますが、衣料品の製品を分解して、リサイクルする循環はなかなか進んでいないのが現状です。
製品のリサイクル化が進まない理由としては、アパレル製品は1着の服を作るのに複数の素材を掛け合わせていることが挙げられています。最近では、製品の循環型リサイクルのために単一素材での製品化にも注目されていますが、それだけではリサイクルは容易ではありません。
アパレル製品は華やかで、豊富なカラーバリエーションで展開されています。服を回収した際に、そのまま生地を活かして別の製品を作るアップサイクルもありますが、原料ベースまで戻して再利用するリサイクルの場合、この染色された色の色抜き作業が必要となります。一度染色された生地からのリサイクル品は、不純物や色抜けがしっかりできない場合は、次の染色の際に影響が出てくる可能性があるのです。純度の高いリサイクル糸を作り出すには、あまり手が加えられない生成りはリサイクル化に適した環境配慮素材を言えます。
まとめ
生成り(キナリ)
- 漂白や染色をせずに、手を加えないそのままの状態の生地
- 色を表す名前ではない
生成りのサステナブルと言われる理由
- 染色・漂白をしない
- ナチュラル素材
- 自然な色味を楽しめる
- リサイクル化しやすい
華やかな色の服も気分を上げてくれるので、とてもいいですが、染めないナチュラルさも素敵です。見た目はもちろん、染めないことによる環境対策への貢献は大きいのです。
企業だけではなく、一人一人が環境問題に取り組んでいかないといけない中で、原点に返り素材そのままの良さを見直してみてはいかがでしょうか?