皆さんも一度は、着ている服の変色や色移りで悩んだ経験はないでしょうか?この色に関するトラブルは「堅牢度」が関与しています。
今まで何度か出てきている「堅牢度」。改めて堅牢度に注目してみました。
堅牢度とは?
堅牢度
堅牢度とは、色の抵抗性を指し、いわゆる変色のしにくさや色落ちのしにくさを確認する指標です。洗濯や、太陽光などの日常の様々な場面を想定して、どのくらい色持ちをするのかを測るための試験方法です。堅牢度は主に「変退色」と「汚染」の観点から測定します。
- 変退色:色相、明度及び彩度を総合した色の変化のこと。
(変色や退色) - 汚染:染料などが他の白布に移行すること。(色移り)
引用:染色堅ろう度の概要と判定(JIS L 0801) | 一般財団法人カケンテストセンター (kaken.or.jp)
変退色や汚染の色の変化は、グレースケールという基準で判定されます。グレースケールは1-5級で判断され、5級が一番色の変化がなく、堅牢度がいいことになります。グレースケールは、5段階ではなく、4と5の間の4-5も基準としてあり、全部で9段階で評価されます。試験片と原布を常用光源であるD65のライトボックスの下で、グレースケールを参照にしながら判定します。
耐光堅牢度
耐光堅牢度とは、その名の通り、光の作用に対する色の抵抗性を指します。光に対して、どのくらいの変退色の変化が起きるかを確認します。試験布に光源を照射して、試験します。
光源は、試験方法によって変わりますが主に「カーボンアーク灯光」か「キセノンアーク灯光」の光源が使用されます。カーボンアーク灯光は、紫外線を照射します。キセノンアーク灯光は、太陽光に近い光を照射します。アウトドアスポーツの場合は、太陽光の下で行われるスポーツのため、耐光堅牢度は重要視されます。
JIS(日本工業規格)の場合は、耐光堅牢度を1から8級までの基準が設定され、8級が一番堅牢度がよくなります。3-4級を下回ると、目視で十分に色の変化を確認することができます。
淡色の色は、比較的に耐光堅牢度が悪くなる傾向があります。耐光堅牢度の対策として、耐光向上剤を使用したり、濃度を上げるなどの対処法が考えられます。
ヤングレディースブランドでは、蛍光ホワイト(KW)を好んで使うブランドがありますが、対光堅牢度が悪いことが多く、トラブルになる事例が見受けられます。
水堅牢度
水堅牢度は、試験片が水に濡れた状態で変退色と汚染がどのくらい起きるかを見る試験です。
試験片を水に浸して、完全に濡らした後に、乾燥させて、変退色と他の繊維への色移りを確認します。
変退色は、水に濡らす前の原布と、水に浸した後の試験片を比較してどれだけ退色したかを確認します。
汚染は、色移りを確認するために、さまざまな素材の白布を用意します。その白布を一緒に、水に浸して、汚染するか(色移りするか)を確認します。白布は、素材一つ一つが別々となった「単一繊維布」と、複数の繊維を交織した「多繊交織布」があります。
下記の写真は多繊交織布で、左から「アセテート」「コットン」「ナイロン」「ポリエステル」「アクリル」「ウール」となります。試験法によっては、さらに「シルク」や「レーヨン」も多繊交織布に含まれることもあります。
汚染前(写真上)と汚染後(写真下)を比較すると、アセテート、コットン、ナイロンに特に汚染が確認できます。染料や素材によって、汚染しやすい多繊交織布の素材も変わります。そのため、同じ生地でも色が変われば、堅牢度の測定はした方がいいでしょう。
濃色の色やフィラメントカウントの高い生地は、水の堅牢度が悪くなる傾向があります。染色後の洗い工程を長くしたり、色の安定性を高めるためにFIX剤を入れるなどの対処法があります。それでも改善が難しい場合は、濃度を落とすか、糸使いの変更が検討されます。
洗濯堅牢度
洗濯堅牢度は、洗濯に対する色の抵抗性を確認する試験法です。洗濯堅牢度も、水堅牢度と同じく、洗濯前後の色の変化を試験する変退色試験と、洗濯時に多繊交織布などを入れて、素材の色移りを確認する汚染試験をします。水試験に加えて、洗濯洗剤や、乾燥条件などが加わり、試験法によって温度や洗濯時間など条件が細かく変わります。また、製品に取り付けるケアインストラクションのラベルの表記を決める要素として、洗濯堅牢度試験は有効な試験法です。
洗濯堅牢度の改善法は、水堅牢度での対策と同様になります。
汗堅牢度
人の汗でも、変色する可能性はあります。汗と同じ成分の人口酸性液とアルカリ性液を使用して、汗への変退色と色移りの確認をします。
試験方法としては、酸性とアルカリ性の汗と同じ成分液に、試験布を浸して、荷重をかけた後に、乾燥させます。酸性とアルカリ性の両方で試験をするのは、汗は人それぞれで、生活習慣や食生活で汗の成分は変わります。そのため、pHの数値の違う酸性とアルカリ性の両方で試験をします。スポーツ向けの生地には、特に確認しておきたい試験項目です。
摩擦堅牢度
ジーンズなどの色物に白いTシャツを着ていると、シャツに青く色移りした経験はありませんか?摩擦も色落ちなどに関係します。
摩擦堅牢度は、生地がこすれた際の摩擦の変退色と色落ちを確認する試験です。
生地に圧力をかけながら、規定回数分擦ります。摩擦試験には、乾燥した生地を摩擦する「乾式摩擦試験」と、濡れた生地を摩擦する「湿潤摩擦試験」があります。
天然繊維の起毛品の濃色や顔料プリントの濃色などは、構造的にデータが悪いことが多いので、注意が必要です。
イエローイング
イエローイングは、淡色などの生地によく試験されます。特にナイロンの生地は、時間が経つにつれて、黄色に変色していく性質があります。白色や薄い色は特に、黄変の変色が分かりやすくなるため、ナイロン生地の白色は特に測定をおすすめします。
燃焼時に発生する酸化性ガスの窒素酸化物(NOx)ガスや紫外線により、繊維が参加して黄変していきます。試験法によって異なりますが、NOxガスや紫外線照射により、イエローイングの試験がされます。
イエローイングの改善としては、イエローイング対策剤の使用か、ナイロンの生地をポリエステルなどに素材変更することが考えられます。
昇華堅牢度
昇華堅牢度は、染料の昇華現象によって色の変化や色移りを評価します。昇華とは、固体が気体になる現象で、分散染料などは熱の影響によって昇華現象を引き起こす可能性があります。分散染料を使用するポリエステル繊維などは、昇華堅牢度に懸念があります。分散染料の染料粒子が小さいほど、消化堅牢度は悪くなる傾向があります。
ステンレス板に試験片を挟み、圧力をかけます。そして、熱をかけながら乾燥させて、染料の移染を確認します。
昇華堅牢度が悪いと移行昇華という染料の色移りが発生します。ポリエステル素材を別素材でコーティングしたり、ボンディングなどの企画をする際に注意が必要です。
まとめ
堅牢度:色の抵抗性を指し、いわゆる変色のしにくさや色落ちのしにくさを確認する指標
- 耐光堅牢度
- 水堅牢度
- 洗濯堅牢度
- 汗堅牢度
- 摩擦堅牢度
- イエローイング
- 昇華堅牢度
日常生活にも大きく関わる「堅牢度」。アパレル業界に携わる人以外にも、気になる内容だったかもしれません。せっかく気に入った服が色落ちすることは嫌ですよね。堅牢度といっても、さまざまな試験項目があります。色関連のトラブルを避けるためにも、各項目の堅牢度の確認はしておきましょう。
上記で紹介した堅牢度試験以外にも、海水に対する堅牢度などいろいろなシチュエーションに合わせた試験があります。必要に応じて追加試験も考慮してみてください。