以前アセテート繊維について紹介させていただきました。
アセテート繊維といえば、「ジアセテート」や「トリアセテート」という素材も耳にしませんか?どれもアセテートと名前に含まれていますが、それぞれどのような違いや特徴があるのでしょうか?
今回は、「アセテート」「ジアセテート」「トリアセテート」の違いについて紹介したいと思います。
「アセテート」「ジアセテート」「トリアセテート」の違いとは?
「アセテート」「ジアセテート」「トリアセテート」の違い
「アセテート」「ジアセテート」「トリアセテート」は、木材パルプを原料としたアセチルセルロースに、酢酸を結合して作られる繊維です。化学繊維の中の「半合成繊維」に分類されます。半合成繊維とは、木材などを原料としたセルロースやたんぱく質を部分的に改質したものから作られる繊維を指します。分子の中に、天然物と合成物の両方を持ち合わせた繊維です。大きな分類のくくりとしては半合成繊維に属しますが、それぞれの特徴はどのような違いがあるでしょうか。
アセテート(acetate)
アセテートとは、繊維自体の名称を指します。アセテートの中には、「ジアセテート」と「トリアセテート」が含まれています。アセテートだけではどちらの意味も含まれますが、特別に明記されない場合「ジアセテート」を指しているケースが多いでしょう。「ジアセテート」と「トリアセテート」の分類は、アセチル基の数によって分けられます。
ジアセテート(di-acetate)
ジアセテートは、アセテート繊維の中でも、アセチル酢酸基の数が2つ付いているものを指します。英語では、「di-acetate」と表現し、acetateの前についている”di”は「2つ」という意味を持っていて、アセチル酢酸基の数から由来して名づけられました。一般的に「アセテート」というと、この「ジアセテート」を指しています。
トリアセテート(tri-acetate)
トリアセテートは、アセチル酢酸基の数が3つ付いているものを指します。英語では、「tri-acetate」と表現し、”tri”は「3つ」という意味を持っています。triple(トリプル)やtriangle(三角形)もこの「3つ」という意味から成された言葉です。
「ジアセテート」「トリアセテート」の特徴とは?
「ジアセテート」も「トリアセテート」も、同じ木材パルプを原料に結合させる酢酸量を調整して作られます。同じ原料を使用している分、生分解性や人体への悪影響は少ない天然由来の素材であることなどの共通した特徴もたくさんありますが、それぞれ異なる特徴も持ち合わせています。
ジアセテートの特徴
吸湿性・吸水性に優れている
トリアセテートに比べて、ジアセテートはセルロース系の素材が持つ吸湿性や吸水性が高いです。そのため、汗やムレが生地に吸収されて、外に放出されるので、快適な衣服環境にしてくれます。べたつきにくい生地になるので、春夏の暑くなる季節には活躍してくれる素材です。
やさしい光沢感がある
コットンやリネンなどの繊維のように、ジアセテートも不均一で、たくさんの溝を持った断面構造をしています。繊維の断面はクローバーのような形をしていて、光が乱反射するので、強すぎないやさしい光沢を持つ繊維です。美しい光沢は、シルクのようだと表現されることもあり、高級感のある繊維です。
引用:化学繊維のかたち|日本化学繊維協会(化繊協会) (jcfa.gr.jp)
生産しやすい
トリアセテートに比べてジアセテートの方が、容易に生産することができるので、比較的に高い生産性のある繊維です。ジアセテート繊維の生産法は、加熱した紡糸原液を口金から加熱空気中に押し出すことで、アセトン溶剤を蒸発させて糸にする「乾式紡糸法」という手法で紡糸されます。トリアセテートも同様に乾式紡糸法によって、紡糸されますが、使用する溶剤には、塩化メチレンやメタノール混合溶剤が用いられています。
生産がしやすい点から、たばこのフィルターにもジアセテート素材は使用されているようです。
トリアセテートの特徴
シミができにくい
トリアセテートは、化学物質である酢酸の含有量が高いので、ジアセテートに比べると化学繊維の要素が強くなります。そのため、原料であるセルロース系の繊維が持ち合わせている“吸湿性・吸水性”が酢酸含有量の少ないジアセテートに比べると劣ります。(実感ベースで言うとほぼ違いが分からないレベルでしょう。)吸湿性が少ないことはデメリットのようにも感じますが、水分が繊維に染み込みにくい分、シミになりにくい特徴があります。
湿潤時の強度低下が起きにくい
セルロース系の繊維は吸水や吸湿性には優れていますが、水分を含んだ状態では、強度低下しやすい傾向があります。ジアセテートに比べてトリアセテートは、吸水性が半分ほどに劣ると言われています。トリアセテートは、吸水・吸湿性が低い分、濡れた時の強度低下が起きにくい繊維です。
発色性が高い
トリアセテートは、ジアセテートに比べると濃色が出しやすく、発色性に優れています。アセテート自体の染色性はいいのですが、トリアセテートの方がより淡色から濃色までの色の再現幅が大きいです。
強度が高い
化学繊維の要素が高いトリアセテートの方がジアセテートより強度が高いメリットがあります。強度が求められる衣料品には、トリアセテートの方が適しているでしょう。
弾力のある風合い
トリアセテートは、弾力性のある繊維で、天然繊維のようなふっくらした肌触りをしています。
シワになりにくい
化学繊維の要素が高いトリアセテートの方がジアセテートより、シワになりにくい特徴があります。弾力性のある繊維のため、ジアセテートよりシワがつきにくいメリットがあります。
耐熱性に優れている
トリアセテートは、ジアセテートと比べても耐熱性に優れている繊維です。耐熱性が高いことで、加工性の幅が増えたり、熱セット性にも優れます。アセテートは、熱可塑性(常温では変形しないが、熱をかけると溶けて、冷えると固まる性質)があるので、熱を加えるプリーツやシワ加工に向いています。
光沢感があり、デザイン加工もしやすい点から、ドレスなどの高級感のある衣料品やおしゃれなインテリア資材にも使われています。
まとめ
アセテート(acetate)
- 繊維自体の名称
- 「ジアセテート」と「トリアセテート」が含まれる
ジアセテート(di-acetate)
- アセチル酢酸基の数が2つ付いているもの
トリアセテート(tri-acetate)
- アセチル酢酸基の数が3つ付いているもの
ジアセテートの特徴
- 吸湿性・吸水性に優れている
- やさしい光沢感がある
- 生産しやすい
トリアセテートの特徴
- シミができにくい
- 湿潤時の強度低下が起きにくい
- 発色性が高い
- 強度が高い
- 弾力のある風合い
- シワになりにくい
- 耐熱性に優れている
同じ原料を使用していても、ちょっとした生産法を変えるだけで、繊維の特徴は変わります。このように紡糸法を変えたり調整できたりするのは、化学繊維ならではの利点です。アセテート繊維の使用を検討される際は、「ジアセテート」と「トリアセテート」のどちらが適しているのかそれぞれの特徴を活かして選んでみてはいかがでしょうか?