生地のプリント加工は、1つや2つではなく、さまざまな方法で生地の素材に適した手法で行われています。スクリーンプリント、ロータリープリント、インクジェットプリント、顔料プリントに転写プリントなど、生地のプリント方法は様々です。
今回は、生地のプリント加工の中でも、「転写プリント」について紹介したいと思います。
「転写プリント」とは?
「転写プリント」
転写プリントとは、専用の転写紙を呼ばれる特殊なシートを使って生地にプリント加工する方法です。
転写紙と呼ばれる吸水性のある特殊な紙にインクを載せてパターンやデザインを印刷して、そのデザインを生地に転写して生地に柄付けします。転写する際には、特殊なプレス機を使って、高温で圧力をかけながらプレスして転写します。
身近なものでは、アイロンプリントをイメージすると分かりやすいでしょう。シール状のキャラクターや柄がデザインされたシートを、転写したい生地の上に載せて、アイロンで熱をかけながらプレスすると、その柄がシートから生地に移ります。この転写プリントも、同様の仕組みでプリントすることができます。
転写プリントの仕組み
転写プリントは、別名「昇華プリント」とも呼ばれ、生地の“昇華”と呼ばれる性質を利用してプリントします。昇華とは、生地の染料が熱により気体になる現象のことです。気体化した染料が、転写紙から生地に移ることで、転写紙にデザインされた柄がそのまま生地に移ることで、プリントします。
昇華プリントに使用されるには、分散染料のインクが使用されます。分散染料は、不溶性の細かい微粒子状の染料を水に分散させて、繊維の間に染料を入れ込んで染色します。主に合成繊維に使用される染料で、ポリエステルに使用される染料です。ポリエステルは、温度が低い状態では、分散染料が中に入っていかないので、高温高圧の環境下で繊維の間に隙間を作りながら分散染料を入れて染色します。分散染料が入った状態で、冷却処理することで、染料を閉じ込めて外にでないようにします。昇華プリントは、分散染料に反応するポリエステル素材に有効です。
大型インクジェットプリンターを用いて、転写紙に分散染料のインクを載せて、デザインを印刷します。分散染料インクでデザインが施された転写紙を、分散染料に反応するポリエステルの生地上に載せて熱と圧力をかけます。ポリエステル繊維の分子構造の中に、分散染料が浸透して、冷却することで、染料を閉じ込めてプリント柄が定着します。
転写プリントのメリット
転写プリントは、プリンターを使った印刷機でデザインをプリントすることができます。スクリーンプリントは、版(プリント型)と呼ばれる枠に色ごとに柄を作成し、色を重ねてプリントしていきます。スクリーンプリントでは、微妙に色が変化するグラデーションや数十色を超える多数の色を使用したカラフルなデザインや細かいデザインを難しくなります。
デザインの自由度が高い
転写プリントの場合は、印刷機を使ってデザインを再現するので、細かいデザインはもちろん、数十・数百種類の色を使用してデザインをすることができます。デザインの制限がないので、理想のデザインを再現しやすいでしょう。スクリーンプリントでは再現できないグラデーションもお手の物です。
発色性がいい
転写プリントに使用される分散染料は、発色性もよく美しい色に仕上げることができるでしょう。発色性がいいだけではなく、生地の間にしっかり入り込むので、正しく取り扱いをしている限り、色落ちや色の耐久性は非常に優れています。
インクのひび割れが起きない
転写プリントの場合は、染料がしっかりと生地に浸透するので、顔料プリントとは違いインクのひび割れが起きにくいメリットがあります。繰り返し洗濯をしても、インクが割れることはありません。
一体感のあるプリントに仕上がる
染料が生地の奥のまで浸透するので、生地の上にプリントを載せたような仕上がりではなく、生地とプリントの柄に一体感がある仕上がりになります。浮いたような柄にならないので、顔料プリントのようなカジュアルな印象にはなりません。
手軽でコストが安い
昇華プリントは、スクリーンプリントに必要な「版」の作成が必要ありません。版は、版画を彫るようにデザイン柄を使用する色の数だけ彫る必要があります。そのため版代の初期費用がかかりますが、昇華プリントの場合は、版の作成が不要なため、コストを抑えることができます。また、版を彫るには時間と手間がかかるので、その手間も減らすことができます。
小ロットでのプリントでも、初期投資が少なく済みます。ノベルティ品やワンシーズンもののデザインなどにも、比較的にコストが安い分、ハードルが低く挑戦することができます。
転写プリントのデメリット
素材が限定される
昇華の性質を利用してプリントする転写プリントは、ポリエステル繊維にしかプリントすることができません。コットンなどの天然繊維は、吸放湿性を持っていたり、独特の風合いなどがありますが、合成繊維のポリエステルには天然繊維らしい特性を出すことは難しいので、素材が限定される点は、デメリットと言えるでしょう。
アイロンや乾燥機の使用ができない
分散染料は、熱により気化する特徴があるので、高温のアイロンや乾燥機により、染料が抜け落ちる可能性があります。特にアイロンはプレスするので、生地の染料が当て布などに移る可能性があります。
テカリ感が出る
高温で圧力をかけながら生地をプレスして加工することで、表面がフラットにツルツルとして、生地にテカリ感が出ます。光沢のなく、マットな質感が好みの場合、転写プリントで表現することは難しくなります。
風合いが固くなる
高温高圧で加工する場合、生地の風合いは固くなります。元々柔らかい生地でも、転写プリント後はペーパータッチのようなパリパリとした風合いに仕上がります。
まとめ
転写プリント
- 専用の転写紙を呼ばれる特殊なシートを使って生地にプリント加工する方法
転写プリントの仕組み
- 生地の染料が熱により気体になる現象である昇華の性質を利用したプリント方法
転写プリントのメリット
- 細かいデザインが再現できる
- デザインの自由度が高い
- 発色性がいい
- インクのひび割れが起きない
- 一体感のあるプリントに仕上がる
- コストが安い
転写プリントのデメリット
- 素材が限定される
- アイロンや乾燥機の使用ができない
- テカリ感が出る
- 風合いが固くなる
素材は限定されますが、生産性や流通性の高さではトップであるポリエステルのため、転写プリントは使いやすいプリント加工法です。初期投資も少なく、気軽にプリントしやすい転写プリントなので、興味があれば、試してみてはいかがでしょうか?