シルクと言えば、高級素材!そんなイメージがありますよね。
昔からある繊維で、聞き馴染みはありますが、具体的にどのような特徴があるかご存じでしょうか?
今回は、シルクの発祥や蚕の繭から紡糸の方法について紹介したいと思います。
シルク
シルク
シルクはご存じの通り、蚕(かいこ)の繭から作られる天然繊維です。シルクは、タンパク質でできていて、人間の肌の成分とも近いことから、「第二の皮膚」なんて呼ばれるほどです。
シルクの歴史
シルクの発祥
シルクの歴史はとても古く、諸説ありますが、紀元前3,000年ころから中国で始まっていたと言われています。シルクの製法を築き上げたのは、古代中国の神話伝説に出てくる8人の帝王のうちの一人でもあった黄帝の妃である、「西稜」の名前が挙げられています。伝説によると野生の蚕を集めては、蚕の繭から糸を取り出し、絹糸を紡いで製糸技術を発案し、確立させたと言われています。紀元前の世界とはどのような世界か想像もつきませんが、その時からシルク製品が愛され、現在でもシルクは高い価値で評価されているのは、感慨深いですね。
殷代安陽期(紀元前1200〜1050年)の遺物から出土した甲骨文字の中に「絹」や「蚕」、「糸」などを表す文字が書かれていたことから、遅くとも殷代安陽期かそれ以前には蚕の養殖は始まっていたと推測されています。
シルクロードとは?
シルクの養蚕は中国で発達し、シルクは中国貴族が独占していたため、長い間他国への輸出はされていませんでした。紀元前350年頃より、徐々に他国への流通が始まりました。紀元前2世紀から18世紀の間、東洋と西洋を繋ぐ交易の道はあの有名な「シルクロード」と呼ばれるようになりました。経済の発展の重要な役割を担い、歴史的な価値が高いと評価され、2014年にはシルクロードの一部区間である「シルクロード長安~天山回廊の交易路網」が世界遺産に登録されました。それほど重要で歴史や経済を変えたきっかけが、「シルク」なのです。
蚕と繭作り
蚕は主に桑の葉を食べて脱皮を重ねながら成長します。その成長改定で、体内にある絹糸腺が繭を作る準備をします。蚕は、口からフィブロインと呼ばれるたんぱく質の繊維を吐き出して、その上に潤滑油の役割になるセリシンと呼ばれるたんぱく質の物質で覆うことで繭を作ります。蚕は体内で生成されるアミノ酸を排出しなければ、成虫になることはできません。蚕は繭を作る際に、体内のアミノ酸を排出して、成虫への準備をしているのです。
健康な蚕であれば、一度に繭を作るにあたって、1,500mの絹糸ができると言われています。蚕の繭作りは、1日に留まらず、2日から3日に渡って、糸を切ることなく吐き続けます。繭ができると蚕はその中で、脱皮をして、さなぎへと姿を変えるのです。この蚕が吐き出した絹糸を使って、シルクの糸ができあがるのです。完全な成虫の蚕蛾までに成長すると、繭を作ることがなくなるので、蚕から糸が採れる期間は限定的になります。
ちなみに、糸を吐いている蚕を驚かせると、吐くのを止めてしまうので、養蚕されている蚕を驚かせないように静かな環境を整える必要があるそうです。
絹糸の特徴とは?
蚕の繭で作られた絹糸とは、どのような特徴があるのでしょうか?
繊維が細い
蚕が吐き出す絹糸は、とても細く軽いことが特徴です。あまりに細いため、直径を計測することが難しいほどです。
三角断面
シルクの繊維は、三角の形状をしています。断面を見ると、左右に2つの三角断面をしているフィブロインという構造を持っています。フィブロインは、繊維状のたんぱく質の塊で、左右の各フィブロインには1,000本以上のフィブリル繊維の集合体でできています。そして、そのフィブロインの外側にはセリシンと呼ばれるたんぱく質物質で覆われています。フィブロインとセリシンの比率は、70~80%:20~30%で構成されています。
太さが不均一
蚕は生き物で、機械で作るのとは異なる天然の繊維を作ります。そのため、合成繊維とは違い、吐き出す糸の太さにはバラつきがどうしても生じてしまいます。特に吐き出しの初めと終わり側は不均一になりやすく、これらの糸は短繊維として使用され、中間の1,000m前後の糸を長繊維(フィラメント糸)として使用されます。シルクのイメージは天然の長繊維をイメージされる方も多いと思いますが、実は短繊維も種類としては存在します。
繭からシルクへの製法とは?
文明の発達が今ほど進んでない紀元前で作られたシルクなのだから、簡単にできるイメージはないでしょうか?実は、シルクを紡績するには、さまざまな工程が必要で、手間のかかる繊維なんです。
繭・繊維の選別
吐き始めと吐き終わり直前は、特に太さがバラつきやすいので、比較的均一な中間の繊維を長繊維へと使用します。バラつきが大きいパーツは、短繊維へと使用され、資源効率よく使われています。
繭の湯銭
繭をお湯で煮ることで、繭が柔らかくなります。湯銭温度は、90Cから100C前後で行われます。熱処理をすることで、糸を取り出しやすくなり、その後の工程を助けます。
糸紡ぎ
前述した通り、絹糸の繊維はとても細く、1本での紡糸はできないため数本の繊維と合わせて撚り合わせます。この工程で、糸のデニールが決まり、軽い糸や重たいと、細い糸や太い糸を調整します。強度にも関わる工程です。
精練
糸を紡ぐ前に、繭糸に付着した汚れや不純物、さらにはフィブロインを覆うセリシンを取り除く必要があります。この洗い工程を精練と呼びます。セリシンは、フィブロインを保護する役割を持っているため、固いタンパク質です。このセリシンを取り除かないままだと、固くて色も悪くなりますが、せっけんまたは、アルカリ液で処理することで、セリシンが溶解され、澱みのない美しいシルクになります。精錬をすることで、シルクの特徴でもある光沢感が出ます。ただし、シルクの種類によっては、精練をしっかり行わずに作られる紡糸法もあります。本来もつ天然のアミノ酸によって、肌に優しくうるおいを保持する効果が期待されています。
精錬は、生機に織り上げる前に行うものと、織り上げ後に行うパターンがあります。生機を作る前に精練をした場合は「先練り」と呼び、生機の状態で精練することを「後練り」と呼びます。
まとめ
シルク
- 蚕(かいこ)の繭から作られるタンパク質の天然繊維
シルクの歴史
- 発祥:紀元前3,000年ころから中国(諸説あり)
- シルクロード:シルクなどを運搬する東洋と西洋を繋ぐ交易の道
蚕と繭作り
- 蚕1匹が一度に約1,500mの絹糸を生産
- 体内で生成されるアミノ酸を排出することで成虫になる
絹糸の特徴
- 繊維が細い
- 三角断面(フィブロインとセリシンで構成)
- 太さが不均一
繭からシルクへの製法
- 繭・繊維の選別
- 繭の湯銭
- 糸紡ぎ
- 精錬
シルクは言わずと知られている高級な天然繊維ですが、どのように作られているか知っている人は少ないのではないでしょうか?蚕1匹が、3日も休まずに糸を吐き続けていたとは驚きではなかったでしょうか?蚕自身はかなりの労力と時間をかけて繭を作り上げています。そしてその吐き出した繊維を数本組み合わせることで、ようやく一つの糸に仕上がります。ひとつの服を仕立てるのに、どれだけの繭が使われているか考慮すると、高級な理由も納得ですね。