環境にも優しい?テキスタイルインクジェットプリント(デジタル捺染)とは?

ファッションを選ぶ際の重要なポイントとは何でしょうか?様々な意見があると思いますが、デザインは服を購入する上で、重要な要素の一つであることに異論はないですよね。

テキスタイルプリントは、ファッションのアクセントにもなり、個性を出すこともできます。単色だけではなく、複数の色を1枚に収めることができるのは、プリントだからこそです。今回は、ファッションには欠かせないテキスタイルプリントの中でも、最新技術である「テキスタイルインクジェットプリント(デジタル捺染)」に注目してみました。

目次

テキスタイルインクジェットプリント(デジタル捺染)とは?

シンプルな無地もいいですが、柄物もファッションを楽しむうえで欠かせません。

テキスタイルのプリント(捺染)方法にはいくつか種類があり、インクジェットプリントの他にも、”シルクスクリーン”、”ロータリープリント”などもあります。インクジェットプリントは、これらのプリント加工方法とどのような違いがあるのでしょうか?

テキスタイルインクジェットプリント(デジタル捺染)

テキスタイルインクジェットプリント(デジタル捺染)は、生地のプリント加工方法の中でも新しいプリント方法にあたります。

インクジェットプリント(デジタル捺染)は、従来のシルクスクリーンなどのプリント方法で必要となるデザイン型の製版をすることなく、図案のデジタルデータを生地に直接、インクジェットプリンターにて、インクを吹付けてプリントする手法です。無製版方式印刷無版印刷などとも呼ばれており、私たちがよく使用するコピー機などのプリンターにイメージが近く、図案のデジタルデータが捺染(印刷)されます。

従来のプリント方法との違い

デザインの作成・変更

製版が必要なシルクスクリーンプリントやロータリープリントでは、難しい繊細な柄やグラデーションも、デジタルプリントでは、作ることができます。

スクリーンプリントは、版(プリント型)と呼ばれる枠に色ごとに柄を作成し、色を重ねてプリントしていきます。

上記で述べた通り、1色ずつの版作成となるため、色数(版の数)が増えるほど、きちんと色を重ねてプリントすることが難しくなり、技術力に定評のある染色工場でも10枚以上の版を使ってプリントできる工場は限られます。

スクリーンプリントの場合、版ズレといって、版と版が重なり意図しない線や筋が欠点として出てくる可能性があります。そのため、滑らかなグラデーションをスクリーンプリントで再現することはできません。

版ずれ

ロータリープリントは、ロールに型を彫ることで柄を作ります。ロータリープリントもスクリーンプリントと同様に、色ごとに版をシリンダーに彫り、ロータリー版を作成します。柄リピートに制限があり、プリントパターンもシンプルで色数にも制限があります。

ロータリー版の製版はリピートの制限や製版費用も高額になりますが、高速でプリントができ、加工賃が安価なため、スクリーンプリントと比較しても定番柄の大量生産の場合などに利用されるケースが多いです。

ロータリー版

テキスタイルインクジェットプリント(デジタル捺染)は、スクリーンプリントやロータリープリントでは表現できない細かい柄やグラデーションを再現することができるので、デザインに制限がありません。CMYKまたはRGBのフルカラー表現が可能なため、微妙なカラーバランスを調整できたり、色に深みを持たせることも可能です。

またスクリーンプリントやロータリープリントでは、デザイン変更や修正、サイズ変更が必要な場合は、版を一から作りなおす必要があります。一方、インクジェットプリントはデジタルデータ上での修正で済むので、コスト、納期面でもメリットがあり、修正しやすいです。

素材を選ばない

テキスタイルインクジェットプリント(デジタル捺染)は、大きくわけて生地に直接インクを吹付けるダイレクトインクジェットプリントと呼ばれる手法と、転写用の紙にインクを吹き付けて、一旦紙に図案をプリントし、その図案の載った紙から生地に転写用のインクを高温で昇華させて、生地を染色と定着させることにより、プリント柄を転写する昇華転写インクジェットプリントという手法があります。

よくある問い合わせとして、昇華転写プリントとインクジェットプリントの違いを質問されることがあります。おそらく、一般的には、インクジェットプリントはダイレクト方式のインクジェットプリントをイメージされる方が多いため、このような質問がでるのではと思わます。

インクジェットプリントの手法の中に、ダイレクト方式と昇華転写方式があるというのが正解になります。

昇華転写方式は、転写紙へのインクジェットプリンターと紙から生地への転写をするためのヒートプレス機があれば、加工できるため、比較的、設備投資が軽く、導入している工場も多いです。非常に使い勝手のいいプリント方法ではあるのですが、ポリエステルの昇華する性質を利用した加工方法のため、プリントできる素材がポリエステルのみに限られることがネックです。

昇華転写プリントの加工イメージ

ダイレクトインクジェットによるインクジェットプリント(デジタル捺染)の場合は、プリンターへ搭載するインクの種類を使い分けることで、ポリエステル(分散染料インク)だけに留まらず、ナイロンやシルク(酸性染料インク)やコットンや麻(反応染料インク)など幅広い生地に対応しています。また、バインダーと呼ばれる接着剤でインクを生地に固着させる顔料インクによるプリントであれば、素材を選ばず、プリントが可能であり、綿とポリエステルの混紡素材のT/Cの生地にもプリントが可能です。(プリント後に堅牢度を上げるために、熱セットする工程があるため、高温に耐えうる素材に限ります。)

合皮などの素材もラテックスインクを使うインクジェットプリンターでプリントが可能なため、多種多様な加工をすることができます。

レーヨンなどの再生繊維も反応染料インクでプリント可能です。シルクライクなレーヨン生地で多色のトロピカルな柄を作成してアロハシャツを作ったり、キュプラに派手な柄をプリントして遊び心のあるスーツの裏地を企画するようなこともインクジェットプリントであれば、容易にできます。

ただし、染料によるダイレクトインクジェットによるインクジェットプリントの場合は、プリントしやすくするためのプリント前の準備工程やプリント後、染料を発色させる工程や染料を洗い流す工程が必要だったり、顔料インクジェットの場合は濃色の堅牢度がよくないなどデメリットも少なからずありますので、加工方法選定の際は開発担当者と相談しながら選定するといいでしょう。

短納期生産が可能

テキスタイルインクジェットプリント(デジタル捺染)は、プリンターのプリントヘッドからインクを吹き付けていきますので、プリントスピード自体は早くありません。しかし、スクリーンプリントやロータリープリントのように、版を作成する必要がないほかに、色数毎にプリントを重ねる必要がなく、一度のプリントで図案が完成します。

そのため、ロットが大きくない企画の場合、テキスタイルインクジェットプリント(デジタル捺染)はデザイン起こしからプリントにかける時間が、とても短く、スピーディーに生産することができます。

環境負荷が少ない

水・糊剤などの消費量軽減

従来のシルクスクリーンなど製版をするプリントと比べるとプリント型を洗浄する必要ないため、水の消費量を減らすことができます。また、シルクスクリーンには、大量の糊剤を必要としますが、デジタルプリントは糊の使用量も少ないです。

昇華転写インクジェットプリントと顔料インクによるインクジェットプリントは洗い工程がないため、水の消費量をかなり抑えることができます。

小ロット生産が可能

従来のシルクスクリーンなど製版をするプリントは、デザイン型の製版で初期に小さくない固定費が発生してしまうため、その固定費が回収できる大きなロットが必要となります。しかし、インクジェットプリントは、その製版が必要ないため、初期の固定費を気にする必要がなく、小さなロットの企画でも採算が合いやすいです。大量に生産する必要がないため、在庫リスクや廃棄リスクを減らすことができます。

ランウェイ用のショーピースやテスト販売など、小ロットでのものづくりが必要なシーンでは大きな魅力ではないでしょうか?東京の千駄ヶ谷などアパレルが密集しているエリアでは、展示会のサンプル作成用に、1着分のみのプリント(数メートル)での対応もしてくれるプリント工場もあります。ここまで小さなロットでプリントできるのは、インクジェットデジタルプリント(デジタル捺染)以外ありません。

テキスタイルインクジェットプリント(デジタル捺染)の工程

プリントの柄が決まれば、マスと呼ばれる見本を作成します。生地によって、見え方や色の出方が変わるので、本番前に必ずマス見本を作成してから量産へ進行します。マスの段階で、色味確認や、堅牢度の確認をするので、量産では安心して進めることができます。

加工の一般的な流れは下記の通りです。

染料インクジェットプリントによるデジタルプリントの加工工程

デザインや画像処理のプロセスが終わると、プリント工程に入ります。

まずは、生機の汚れや糊を取り除く処理として、晒工程(精練)を行い、P下と呼ばれるプリント用下晒を作り、そのP下に糊剤など発色をよくする前処理工程を施します。P下にプリント柄を載せて、発色や色持ちのために蒸し工程が施されます。幅セットなどの仕上げがされて、プリント生地が完成されます。

テキスタイルインクジェットプリント(デジタル捺染)の欠点

メリットの多い、デジタルプリントですが、その加工方法による欠点もあります。

ドットによるデジタルデータの表現(粒状感)

デジタルカメラの画像などは拡大していくと点の集合体であることがわかります。デジタルデータは、このドット(点)を掛け合わせた集合体でフルカラー表現をしています。デジタルプリントでプリントされた生地は、色系統によっては、ドットが感じられる(粒状感)ときがあり、好まれない場合があります。

インクの裏抜けの問題

従来のシルクスクリーンなど製版をするプリントは、糊剤を混ぜたインクを生地にこすりつけていくような手法でプリントしていくため、中肉くらいまでの生地あれば、生地の裏面までインクが浸透します。一方、デジタルプリントは、プリントヘッドのノズルからインクを吹き付けているだけなので、生地の裏面まではインクが浸透せず、生地の裏はプリントされないままの状態です。こちらも裏が見えるデザインの場合、敬遠される場合があります。

加工スピード

短納期生産が可能と述べましたが、加工スピードだけを見るとやはり、スクリーンやロータリーと比べると遅いです。最近では、その欠点もクリアした高速捺染が可能なシングルパス型のインクジェットプリンターの導入を始めている工場もあります。

テキスタイルインクジェットプリントまとめ

POINT
  • テキスタイルデジタルプリント(デジタル捺染):デジタル化された図柄をインクジェットプリンターでプリント
    • 緻密な柄やグラデーションなど自由なデザインが可能
    • 様々な素材にもプリント可
    • スピーディーで短納期
    • 小ロット対応や水・資材排気量も少ないエコなプリント
    • デジタルプリントならではの欠点を理解する必要

デザインに幅が広がることもさることながら、デジタルプリントは環境負荷が少ないサステイナブルな生地です。小ロットからも生産可能なため、積極的に企画に取り入れてみてはいかがでしょうか。

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