生地を設計する上で欠かせないのが、密度の設定です。同じ糸や構造で作っても、密度が変われば仕上がりに大きく影響します。
今回は、高密度生地と低密度生地を比較して、違いや特徴を紹介したいと思います。
生地と密度
生地と密度
織物・編物ともに、一般的には1インチ間(2.54cm)に何本の糸が入っているかで密度を表します。1インチ間に入っている本数が多ければ多いほど、糸がたくさん詰まった高密度な生地となり、糸の本数が少なければ、密度が低い生地に仕上がります。密度は、見た目・風合い・コスト・物性面の全てに影響を与えるほど、生地つくりで重要な要素です。
高密度生地と低密度生地の特徴
高密度生地と低密度生地にはどのような違いが具体的にあるのでしょうか?糸の特性や組織(タフタやツイルなど)次第で仕上がりはばらつくので、ここでは同じ糸・組織を使用したベースでの比較とさせていただきます。
風合い
イメージがつくかと思いますが、生地の密度が高いほど硬い風合いに仕上がります。密度が高ければ、硬いと表現しましたが、ハリ感がある生地に仕上がるので、必ずしもデメリットにはなりません。細番手の糸を使用して、密度が甘い場合はペラペラの生地に仕上がり安っぽく見える可能性があります。糸・組織・密度・加工によって仕上がる風合いは大きく変わるので、ターゲットの風合いに合わせて調整が必要です。
透け感
透け感は、密度が高ければ高いほど透けにくく、密度が甘いと透けやすくなります。パンツなどの生地は透けてはいけないので、動いても透けることのない高密度な生地を使う方がいいでしょう。透けにくい生地であれば、UVカット効果も期待ができます。
反対に透け感のある生地は、密度を甘くすることと糸を細くすることや透過率の高い糸を使用することで、作ることができます。清涼感のある見た目になるのと、重ね着でインナーが見えるような製品を作る際などには透け感のある生地が採用されます。
重さ
密度が高いほど重たくなり、低いほど軽い生地ができます。密度が高く重たい生地は、重厚感がでて高級な見た目にも見えます。ある程度の重さのあるジャケットなどを作りたい場合は、糸を太くするほかにも密度でコントロールすることができます。
反対に軽い生地は、動きやすくスポーツウェアやデイリー使いには重宝されます。最近では軽くて持ち運べるパッカブルウェアなどが人気で、夏のクーラーと外の暑さを調整する羽織のような製品が人気を高めています。軽いと疲れにくいので、登山やランニングなどを始めとした多くのスポーツでも人気の高い生地です。
コスト
密度が高いと糸の使用量も多くなるため、コストは上がります。密度が高いと生産性も下がるので、どうしてもコストアップは避けられません。反対に、密度が甘いと生産効率もアップし、糸の使用量も減るので、風合いや物性面に問題がなければ、密度を減らした方が、価格は抑えることができます。
通気性
通気性は、密度が高いと低くなり、密度が甘いと糸同士の間に隙間が増えるため、通気性が高くなります。
高密度生地は通気性が低いですが、必ずしもデメリットとはなりません。ある程度の通気性を止めてくれた方が、ウィンドプルーフ用途やダウンプルーフ用途の生地として使えます。密度が甘いと、ダウン漏れや綿漏れが起きやすくなるので、高密度生地の方が重宝されます。
密度が低い生地は、通気性が上がるので、不快なムレを放出してくれたり、濡れても乾きやすいメリットがあります。
防水性
生地の密度が詰まるほど、服の中に水が浸入することを防いでくれます。防水加工でコーティング加工やラミネート加工などをする際も、密度が甘すぎると、コーティングの樹脂や接着樹脂が漏れる懸念があります。防水性能をつけたい場合は、ある程度密度を混ませる必要があります。
引裂強度
引裂強度とは、生地を引っ張った際の破けやすさを表す物性測定法の一つです。生地の強度を測ることができます。引裂強度は、密度が高いほど低く、密度が低い方が良くなる傾向があります。
引裂強度は、生地の硬さに左右されやすく、硬い方が破けやすく、柔らかい方が、力が分散されて破れにくくなります。密度が高いとペーパーライクに仕上がり、特に薄い高密度生地の場合は、紙が破けるようにベリっと簡単に破けてしまうことがあります。糸が太くてある程度の強度がある場合は、日常使いで破けることは心配ないので、全ての高密度生地が破けやすいというわけではありません。しかし、アウトドアスポーツやキャンプ用品などで山などの木々が生えている場所向けには、引っかかって破れてしまうことのないような耐久性の高い生地が求められます。
滑脱
滑脱とは、生地のスリップ(織目・編目が動くこと)を指します。生地を引っ張った時に目がどのくらい動くかを計測することで、生地の滑りやすさを見ます。滑脱の数値が悪いと、型崩れを起こしやすくなります。
滑脱は、密度が高い方が安定しやすく、密度が甘いと遊び(ゆとり)ができるので、目が動きやすくなります。着ているうちに型崩れを起こしたり、糸が動いてヨレてしまうこともあります。
ストレッチ性
生地の隙間が埋まっている高密度生地は、ストレッチ性が低く、ゆとりのある低密度生地はストレッチ性が高くなります。弾性繊維であるポリウレタン繊維などを使った場合でも、密度が高ければストレッチ性を消してしまうことになります。ストレッチ性を高めたい場合は、密度を甘くした方がいいのですが、滑脱などの物性懸念が出やすくなります。
耐摩耗性
耐摩耗性は、高密度生地の方が良くなる傾向にあります。糸と糸の間の隙間が少ない分、摩擦に対する影響が受けにくくなります。毛羽やピリング(繊維が絡まって表面にでる毛玉)も高密度生地の方が発生しにくいでしょう。毛羽立ちや、毛玉がついていると清潔感にも欠けるので、摩耗性の耐性がある生地の方が製品寿命を延ばすことができるでしょう。
まとめ
高密度
- 風合い:硬い
- 透け感:透けにくい
- 重さ:重い
- コスト:高い
- 通気性:低い
- 防水性:高い
- 引裂強度:低い
- 滑脱:良い
- ストレッチ性:低い
- 耐摩耗性:良い
低密度
- 風合い:柔らかい
- 透け感:透けやすい
- 重さ:軽い
- コスト:安い
- 通気性:高い
- 防水性:低い
- 引裂強度:高い
- 滑脱:悪い
- ストレッチ性:高い
- 耐摩耗性:悪い
機屋や生地屋はどんな用途で、どんな加工をするかなどを考慮して、密度を設定します。それほど仕上がりに大きな影響を与えるのが密度です。密度が高い生地も、低い生地もそれぞれメリットやデメリットがあります。使用する糸種・組織・加工が変われば、また違った生地が仕上がるので、これが繊維の面白さでもあり、難しさでもあります。