「生機」や「P下」というワードをご存知でしょうか?
川下から川上まで、服ができあがるまでの長い工程の中で、主に繊維生産の川中に位置する、織や染色加工などの生地生産に関わる言葉です。一般的な用語ではないため、知らない方も多いかと思います。
今回は、「生機」と「P下」について、解説してみようと思います。
生機(きばた)やP下(ぴーした)生地ってなに?
生機(きばた)
生機(きばた)とは、織り機や編み機で、出来上がったままの生地のことを指します。生機以外にも、原反(げんたん)とも呼ばれ、染色や後加工などが一切施されていない状態の布地です。
生機は、糸にサイジング剤と呼ばれる糊を付けて製編製織されます。そのため、織り上がりや編み上がりの状態では、糊が付いているためゴワツキやパリパリした手触りになり、生機のままの状態で服が作られることはありません。
多くの生機には、下記のような黄色マーカーなどに品番や製編製織の完了日や反番などの情報が記載されています。この黄色のマーカーは特殊なインクを使用しているため、染色しても文字が消えず落ちないのです。加工中は、品番などの記載されたタグは全て取り外されるため、落ちないインクで反番詳細を載せることにより、万一トラブルが発生した場合に、トレースすることができます。
サイジングとは?
サイジングとは、糸の糊付けで、製織の生産効率を上げたり、製品の品位を左右する重要な工程です。織物を織る際は、織機で経糸の間に緯糸をくぐらせて交錯させるのですが、糸に摩擦などのダメージが起きやすくなります。
経糸は、緯糸を通す隙間を開けるときの急激な張力ストレスが発生するほかにも、緯糸を打ち込むときの摩擦や隣り合った経糸同士のからみ合いなどの負荷がかかります。ダメージを与えスムーズな生産を妨げるさまざまな負荷がかかります。そのため糸をそのまま織機にかけると、強度や摩擦耐性の不足によって、毛羽や糸切れが発生し、織ることが難しくなります。この摩擦などのダメージや負荷を軽減するために、経糸にあらかじめサイジング剤(糊)をつけてコーティングすることで、強度アップします。サイジング工程により、滑りがよくなることから、生産効率も上げることができる欠かせない作業です。
製織中だけに留まらず、サイジングで糊付けしていることによって、仕上がった生機の輸送時にも摩擦やダメージの軽減がされます。
サイジング剤に使用される成分は、天然糊剤である穀物からとるデンプンを溶かしたものや動植物油などに加えて、合成糊剤であるPVA(ポリビニルアルコール)、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂といった合成水溶性ポリマーなどが使用されています。場合によっては、帯電防止剤や防腐剤などの助剤も配合されることがあります。生地の素材によって、さまざまにサイジング剤が使い分けられているようです。
P下(ぴーした)生地
P下(ぴーした)生地とは、「P下晒(ぴーしたさらし)」や「晒(さらし)」などとも呼ばれます。繊維加工に携わらない限り、なかなか馴染のない言葉かもしれません。
もともとは「プリント下」という言葉があり、プリントがすぐにできる状態のことを指します。プリント下が省略されて、現在では「P下(ぴーした)」と簡略して呼ばれることも多くなりました。英語では、「PFP(Prepare For Print)」と表現されます。
通常の加工では、”生機の精練→染色/プリント→後加工→仕上げ”の流れで加工がされます。P下は、精練が終わった状態の染色・プリント前の状態の生地です。P下の状態では、帯電防止剤などの仕上げ剤が使用されていないため、静電気が発生しやすく、ほこりなどの汚れが付きやすい状態です。通常は、精練後に、すぐに染色またはプリントの工程に入るので心配ありませんが、P下での保管をする場合は、管理に注意が必要です。
精練とは?
精練とは、簡単に言うと「洗い」工程です。英語では、「Scouring」や「Soaping」と呼ばれます。
紡糸や製編製織等で付着しているサイジングや油剤、織り込み汚れなどを除去し、不純物を取り除く作業です。染色の浸透性や後加工でのトラブルを防止する重要な工程です。
精練不良が発生すると、色ムラや不純物が残留する箇所に染料が乗らない染色斑のトラブルに繋がる可能性があります。
また、精練不良は、柔軟剤や撥水剤、樹脂などの加工に使用する剤の付着の妨げになり、パフォーマンス低下の要因となります。
この精練の工程で使われる精練剤は界面活性剤を主成分とした、サイジングや油剤を除去する薬剤が使用されます。界面活性剤は、親水基と親油基から構成されており、浴中で界面活性剤ミセルと呼ばれる基を形成します。界面活性剤の親油基が、生地に付着した油剤を吸着して、乳化作用が起きます。そして、ミセルが油剤を取り込み、乳化分散されることで、繊維に付着した油剤や汚れを除去します。
素材の種類や組織、付着した汚れの種類によって、要求される精練剤の性能も変わります。正しく精練するために、精練時間や剤の調整などさまざまな配慮がされています。サイジング剤との相性が悪いと、うまく精練できずに、サイジング剤がカス汚れとして蓄積してしまうこともあるようです。精練剤での調整でうまくいかない場合は、サイジング剤の調整も視野に入れる必要があります。
生機とP下の違いとは?
生機は織り上がりまたは編み上がりの状態で、P下は精練後の状態を指します。これらの生地の状態では、どのような違いがあるのでしょうか?
見た目は、あまり大きく違いはないでしょう。汚れが落とされた状態ですが、染色がされていないため、見た目では気づかないかもしれません。糸使いによっては、精練時に高温で洗浄することにより、熱で生地が縮んだり、幅が入ることによって、シボ感が出たりすることもあり、特にストレッチ系の生地では、生機とP下での見た目の変化が明らかになる場合もあります。
風合いに関しては、大きく違うポイントの一つです。糊付けを落とことと、洗浄工程でもみ込まれることにより、P下の風合いは柔らかくなります。糸本来のしなやかさや柔らかさが、P下では見られるでしょう。反対に生機の状態では、サイジング糊が付着して、強化されているため、固くてゴワツキやパリパリした感触で、生地本来の風合いを感じることはできません。
まとめ
生機(きばた):織り機や編み機で、出来上がったままの生地
- サイジング:製織の生産効率を上げたり、製品の品位を左右する工程
P下(ぴーした)生地:プリント下生地。染色やプリントがすぐにできる状態の生地で、精練後の生地の状態
- 精練:紡糸や製編製織等で付着しているサイジングや油剤、織り込み汚れなどを除去し、不純物を取り除く作業
生機とP下の違い
- 見た目:大きく変化なし、もしくは幅変更によりシボ感の差程度
- 風合い:生機は固くゴワツキがあるがP下は生地本来の風合い
どちらも染色が施されていない状態で、見た目では分かりにくいかもしれませんが、今回で生機とP下についての違いや理解が深まれば幸いです。