アパレル製品には欠かせない存在となった合成繊維。合成繊維の中でもよく衣料品に使用されるのが、ナイロンとポリエステルです。実際、買った服のタグの混率表記を見るとナイロンやポリエステルの表記をよく見かけることでしょう。
今回は合成繊維の代表でもある、「ナイロン」と「ポリエステル」の違いについて追及したいと思います。
ナイロンとポリエステルの比較
原料
原料は大きなくくりで言うとナイロン・ポリエステルとも「石油由来」になります。同じ石油由来ですが、細かく分類するとナイロンとポリエステルの原料は異なります。
ナイロンは石油由来の「ポリアミド」と呼ばれる合成樹脂から作られる繊維です。世界で初めて作られた合成繊維で、アメリカのデュポン社が1963年に商品化しました。ナイロンはデュポン社の商品名でしたが、今では浸透して一般名として使われています。
一方、ポリエステルは石油由来の「PET(ポリエチレンテレフタレート)」から作られることが一般的です。このPET原料は、ペットボトルの原料としても使われているものになります。
世界で一番作られている繊維がポリエステルになります。服のタグを見ると、高確率でポリエステルが含まれていることでしょう。
ナイロンは石油由来の「ポリアミド」が原料
ポリエステルは石油由来の「PET(ポリエチレンテレフタレート)」が原料
強度・耐久性
天然繊維と比較すると合成繊維は、強度や耐久性に優れています。では、ナイロンとポリエステルの強度の違いはどうでしょうか?
ナイロン | ポリエステル | |
引張強度(糸の強度) | 〇 | |
摩擦 | 〇 | |
耐熱性 | 〇 | |
難燃性(燃えにくさ) | 〇 | |
耐薬品性 | 〇(ただし、酸性には弱い) | 〇(ただし、アルカリには弱い) |
糸や耐久性は基本的にはナイロンの方が強いです。デュポン社のナイロン開発当時のキャッチフレーズは「鋼鉄よりも強く、クモの糸より細い」だったように、非常に強度に優れた合成繊維です。ナイロンの語源は、伝線(run)しないストッキング用の繊維「no run」から来ているという話もあります。
また、ポリエステルと比較して難燃性(燃えにくさ)に優れているため、火を使うキャンプのテントなどにもよく使用されます。反対にポリエステルは耐熱温度は高いですが、着火すると燃えやすく溶融しやすくなります。
上記を見るとポリエステルが劣る印象を感じるかもしれませんが、ある程度の強度はあるので、衣料品で使用することには問題ないレベルです。
加工のしやすさ
ナイロン、ポリエステルともに加工はしやすく、安定性もあります。
ナイロン | ポリエステル | |
熱セット性(形状記憶) | 〇 | |
収縮率 | 〇 | |
伸縮性 | 〇 | |
堅牢度 | 〇(ただし、黄変は弱い) | 〇 |
発色 | 〇 | 〇 |
耐シワ | 〇 |
ポリエステルは熱セット性が高く、熱をかけて生地巾を設定すると、あまり伸び縮みは起きません。形状記憶力があります。
反対にナイロンは伸縮性があり、吸水性が高いことから水分を含んで変形することがあり、生地の伸び・縮みが起きやすい生地です。洗濯後に縮みやすかったり、買った服のサイズが着ていくうちに若干変わることもあり得ます。
ナイロン、ポリエステルとも発色や堅牢度は、天然繊維に比べていいです。
ナイロンの染色には「酸性染料」を使用されることが一般的です。ナイロンは時間が立つと黄変しやすい特徴があり、白色や明るい色の服は時間の経過とともに黄ばみやすくなります。加工で黄変対策剤を使用する等の工夫をする必要があるかもしれません。
ポリエステルの染色には「分散染料」を使用されることが一般的です。ポリエステルは染まりにくい繊維のため、高温・高圧で染色する必要があります。
この染料の違いを活かして、ナイロンとポリエステルの両方の糸を使用した生地に片側のみ、もしくは両方別色で染色することで、色ムラのあるメランジ生地を作ることもできます。
ナイロンとポリエステルの種類
ナイロン
ナイロンの中でもたくさんの種類があることをご存知でしょうか?化学構造の違いにより、分類されており、
ナイロン6, ナイロン66の他にもナイロン(ポリアミド)11など様々な種類が開発されています。これらの数字は、合成原料の炭素原子の数に由来しています。
ナイロン6、ナイロン66(ナイロン6,6とも表記)
一般的に流通しているナイロン繊維は、「ナイロン6」と「ナイロン66」です。ナイロン66の方が耐熱温度や強度が強いため、撚糸や撚り加工などの加工糸によく使用されています。
ナイロン11
ナイロン(ポリアミド)11はアルケマ社が唯一の供給メーカーで、「Rilsan®」という名で商標登録しています。樹脂の炭素成分が「ひまし由来」であり、植物由来であることが特徴です。サステイナブルの意識が向上する現在、バイオミックスの合成繊維が注目されています。
ポリエステル
ポリエステルもナイロン同様、多種多様の種類があります。
ポリエステルとはエステル基をもつものに対する名称で、エステル基にも多様の種類があります。
一般的に使用される「PET(ポリエチレンテレフタレート)」や「PTT(ポリトリブチレンテレフタレート)」、「PBT(ポリブチレンテレフタレート)」などが衣料品に使用されるポリエステル繊維になります。
PET(ポリエチレンテレフタレート)
ペットボトルの原料にも使用され、衣料品では半分ほどを占める割合で使用されます。
耐熱性の高さや強度があります。比較的に値段も安く、加工もしやすい繊維です。ペットボトルの原料があることから、リサイクル化も進んでいます。
糸加工により、糸の形状を変えて、同じPET原料の中でも多種多様な異形断面糸が作られています。
PTT(ポリトリブチレンテレフタレート)
PTTの特徴と言えば、ストレッチ性です。形状安定性もあり、肌触りもいいことから、衣料品で活躍しています。バネのような構造をしていて、かさ高性があり、熱に強い繊維です。
主成分はTPAテレフタル酸とPOD1.3プロパンジオールで構成されているポリエステルの仲間です。後者のPOD1.3プロパンジオールはバイオ由来(トウモロコシ由来)のため、サステイナブルな合成繊維とも認識されています。今後、環境配慮により、PTTの活躍の場は広がっていくかもしれません。
PBT(ポリブチレンテレフタレート)
PBTもPTT同様に、ストレッチ性の優れた繊維です。耐熱性に優れているので、生地の安定性や取り扱い繊維です。耐薬品性もよく、加工しやすい繊維です。繊維以外にも、自動車の部品などに使用されるなど、幅広い用途で、身近に使用されています。
デメリット
ポリエステルのデメリット
移行昇華
ポリエステルの染色には高温・高圧で分散染料を繊維の中に押し込んで染色します。しかし、この分散染料は熱に反応する性質があるため、保管状況によっては、再度繊維の表面にでてきてしまい、他の繊維に染料が汚染してしまいます。ポリエステルと異素材とのドッキング企画やポリウレタン等のコーティング、ラミネートは避けたほうが無難です。
まとめ
- ナイロンとポリエステルの違い
– 原料:ナイロンは石油系ポリアミド、ポリエステルは石油系エステル基
– 強度:ナイロンの方が比較的強いが、耐熱性はポリエステルが優れてる
– 加工:耐熱性の優れるポリエステルはセット性があり、形状記憶力がある - ナイロンとポリエステルの種類
- ナイロン:ナイロン6, 66, 11 etc
- ポリエステル:PET, PTT, PBTetc
合成繊維と一括りにしても、たくさんの種類があり、それぞれ特徴も異なります。
石油由来の合成繊維の一部に、植物由来のバイオ原料を混ぜて環境に優しいモノつくりが進化をしてきています。原料ベースまでこだわったモノつくりが、今後のトレンドになるかもしれませんね。