撥水と防水の違い
撥水と防水の違いとは?
スポーツ衣料やアパレル業界では、撥水加工や防水加工が定番化していますよね。
この撥水と防水の明確な違いをご存知でしょうか?消費者の中には、撥水と防水がイコールと考えている方もいるかもしれません。しかし、撥水加工と防水加工は効果が違うため、用途によって使い分ける必要があります。
撥水と防水の違いは、簡単にいうと下記のとおりです。
撥水=水をはじく
防水=水を通さない
撥水加工である程度の水がはじかれて、水の侵入を防ぐことはできますが、勢いよく水をかけると、水を通してしまうこともあります。レインコートや傘は完全に水の侵入を防ぐ必要があることから、撥水加工だけでは不十分な可能性があるため、防水加工を選択する必要があります。
撥水加工とは?
撥水の原理
撥水加工とは、水をはじく加工を施したものになります。撥水剤を生地にコーティングすることで、水滴を球状にしてはじきます。
ほとんどの生地は糸に特殊加工をしていない限り、水を引き寄せる力が働きます。ここに撥水剤を塗布すると、生地の表面に撥水基が立ち、生地が水を引き寄せる力を妨げます。目に見えない細かい撥水基が産毛のように生地の上に立つことで、水が持つ表面張力が生地の水を引き寄せる力より勝り、凝縮して球状になるのです。こうして球状になった水滴は、生地に吸収されることなく水がはじかれます。
しかし、残念ながら撥水加工は次第に性能が落ちてきます。洗濯により、撥水基が剝がれ落ちてしまったり、摩擦や汚れにより、撥水基が寝てしまい効果が落ちてくるのです。
撥水の種類
撥水剤には、フッ素系撥水、アクリル系撥水やシリコン系撥水などがあります。
従来の撥水剤には、ほとんどフッ素化合物が含まれているものが一般的でした。しかし、最近は「非フッ素撥水剤」へ切り替える動きが高まっています。というのも、フッ素化合物(PFC)は、自然界に残留し、人体に蓄積される懸念があることが分かったからです。近年では、フッ素化合物を含まない撥水剤(PFC free)へシフトすることを宣言している会社も増えてきています。
しかし、非フッ素撥水剤にもデメリットがあります。どうしてもフッ素化合物含有と比較すると、撥水性能や耐久性は劣ってしまいます。また、非フッ素撥水剤は油に弱く、撥水面を手で触ると、手の皮脂で撥水が落ちる可能性があります。性能面ではまだまだ課題が残りますが、サステナビリティ思想への関心の高まりから、非フッ素撥水への切り替えは今後も進んでいくでしょう。
フッ素撥水 | PFCフリー撥水 | |
---|---|---|
撥水性能 | 〇 | △ |
耐久性 | 〇 | × |
値段 | – | 同程度~やや高い |
防水加工とは?
防水加工の原理
防水加工は主に、コーティングやフィルム貼り合わせの被膜加工により、生地の目(穴)を完全に防ぎ、水の侵入を防ぎます。生地に撥水加工が施されていない限り、生地は水を吸いますが、膜のおかげで水を通すことはありません。
防水加工の種類
防水加工には樹脂コーティングまたは、フィルムの貼り合わせ加工をします。
防水コーティングとしては、アクリルコーティングやポリウレタン樹脂コーティングが一般的な防水コーティング加工です。
フィルムの貼り合わせの場合は、ポリエステルフィルムやストレッチ性や透湿性(蒸気やムレを外に放出する)に優れているポリウレタンフィルムなどが一般的です。
防水性は樹脂コーティングより、フィルムの方が優れています。より高い耐水性が必要な場合は、フィルム加工の方がよいでしょう。
コーティング加工 | フィルム貼り合わせ加工 | |||
アクリル | ポリウレタン | ポリエステル | ポリウレタン (透湿性フィルム) |
|
耐水性 | 〇 | 〇 | ◎ | ◎ |
通気性 | × | △ /× | △ /× | ◎ |
値段 | 〇 | 〇 | △ /× | × |
透湿防水フィルムは特に、マウンテンやスキー、サイクリングなどに人気です。長時間外で動き続けるスポーツには、いかなる悪天候もカバーしつつ、衣服内のムレを放出し、快適な状態を保つことが重要視されます。そのため、防水性に加えて通気性も重要な要素となるのです。
用途別! 撥水と防水の使い分け方は?
撥水と防水の違いは分かりましたが、実際どのように使い分けるといいのでしょうか?
メリットやデメリットを考慮して、一般的には下記のような用途使いをしているようです。
メリット | デメリット | 用途 | |
撥水 | ・値段が安い ・軽い ・通気性 | ・水を通す ・耐久性が低い | タウンユース・カジュアル etc. |
防水 | ・耐久性がある | ・表の生地が水分を吸うため 濡れると重くなる可能性が ある。 | レインジャケット・テント etc. |
撥水 + 防水 | ・耐久性が高い (撥水である程度の水をはじくため、 防水加工のダメージも少ない) | ・値段が高い | アウトドアスポーツ (マウンテン・スキー ・ウォータースポーツ)etc. |
撥水 + 透湿防水 | ・防水性がある上に、 ムレにくい ・耐久性が高い | ・値段が高い | アウトドアスポーツ (マウンテン・スキー ・ウォータースポーツ)etc. |
高い基準を満たすためには、単に撥水品や防水品だけではなく、両方の加工を施す必要もあるでしょう。
特に軽量生地を使って防水ジャケットを作る際は、注意が必要です。いくら防水加工で水を通さなくても、表面に撥水加工をしていないと生地が水を吸うので、体感は濡れているように感じるといった声も聞きます。また、軽量品の場合、薄塗コーティングや薄膜フィルムを使用してより軽量を謳える加工に仕上げるでしょう。薄膜の場合、強度が弱いため、勢いよく水圧がかかるとコーティング剥離やフィルム破れの懸念があります。そのため、表面に撥水加工を施し、ある程度の水をはじくことで、耐久性を補強することをおすすめします。
撥水品や防水品のケア方法とは?
撥水品のケア
撥水の原理でもお伝えしましたが、撥水性能は使用とともに徐々に低下していきます。
できるだけ長く持たせるには、どのようなケアが必要でしょうか?
・洗濯を極力減らす(できれば手洗いで優しく洗うとより良い)
・洗濯はケアマーク(タグに記載された洗濯指示)に従う
・吊り干し乾燥する(タンブルドライは摩擦が起こり、ダメージが起きやすい)
・撥水箇所の摩擦を減らす、触らない
・油汚れに注意する
・寝てしまった撥水基を回復させるには、熱をかける
ドライヤー・乾燥機・アイロン(当て布要)ただし、洗濯等で撥水基が完全に
剝がれ落ちている場合は、この処方は効きません。
・撥水サービスを取り扱うクリーニング業者に依頼する
防水品のケア
防水品に関しては、被膜が剝がれない限りは、防水性能は続きます。
こちらもケア次第では、長持ちするので、ぜひ参考にしてください。
・洗濯を極力減らす(できれば手洗いで優しく洗うとより良い)
・洗濯はケアマーク(タグに記載された洗濯指示)に従う
・吊り干し乾燥する(タンブルドライは摩擦が起こり、ダメージが起きやすい)
・陰干し、直射日光を避ける
・被膜箇所への摩擦やダメージを減らす
・熱をかけない
・フィルムがむき出しになっているジャケットより、裏地がついてるものを購入する
まとめ
撥水と防水の違い
撥水=水をはじく
防水=水を通さない
撥水と防水の用途別使い分け方
撥水=タウンユース、カジュアルスポーツウェア
防水=レインジャケット、テント
撥水+防水=アウトドアスポーツ
ケア方法
撥水
・撥水基が落ちないように摩擦や汚れ、油に注意
・洗濯はケアマークに従う
・撥水機能が落ちた時は、熱をかける
防水
・防水膜のダメージを抑える(摩擦・汚れ)
・洗濯はケアマークに従って陰干し
撥水も、ある程度防水性があることから、防水機能と混同しがちですよね。
撥水と防水のそれぞれの特性が分かると、目的にあった加工を選ぶことができます。どのレベルの防水性や耐久性が必要なのかで、加工を選定してみてください。
また、せっかく防水機能を持たせるからこそ、長く着たいですよね。
ケア次第では性能も長持ちするので、正しいケア法を消費者に伝えて、愛着を持って長く着てほしいですね。