「キュプラ」という生地を聞いたことがありますか?裏地としても適する要素をたくさん持ち合わせているので、高級スーツやコート、ジャケットなどの裏地によく使用されている繊維です。
今回は、裏地に最適な「キュプラ」の特徴について解説したいと思います。
「キュプラ(Cupro)」とは?
「キュプラ(Cupro)」
「キュプラ」は高純度の木材パルプや、コットンリンターと呼ばれる綿の実の種子の表面に付いている産毛のような短い繊維を原料として作られる繊維です。コットンリンターは、長さが約2〜6mmほどあり、それを溶かして紡糸されます。正式には「銅アンモニアレーヨン」という名称で、日本では旭化成が商標登録している「ベンベルグ®」もキュプラを指しています。
キュプラの製造は、工程に含まれる銅やアンモニアの処理に難点があり、次々と製造撤廃がされる中、旭化成は銅などの再利用技術を確立し、世界唯一のベンベルグメーカーとしてキュプラ(ベンベルグ®)を製造しています。
「キュプラ」は、天然の原料で作られますが、天然に存在している天然繊維とは異なり、人工的に作られるため、「化学繊維」に位置します。その中でも、天然のセルロースなどからなる木材や綿などの天然繊維または、ペットボトルなどの製品などを、化学反応によって一度溶解して、再度紡糸して作られる「再生繊維」に位置します。再生繊維には、「キュプラ」の他にも、天然の原料を溶解して紡糸する「レーヨン」や「リヨセル」や「再生ポリエステル」なども該当します。
「キュプラ」の製造法
キュプラの製造はどのように作られるのでしょうか?
綿花(リンター)の採取
採取したばかりの実綿(綿花)の綿の中にある種から、長い繊維(リント)と短い繊維(リンター)に仕分けられます。キュプラは、このうち「リンター」を原料にして使われます。
リンターの溶解
リントは繊維長が3~4cmほどあるので、束ねて紡績することができますが、リンターは繊維長が約2〜6mmの産毛のような長さしかなく、このままでは紡績することができません。そのため、紡績ができるように再形成するため、酸化銅アンモニア溶液に溶かし、セルロースを溶解します。
紡績
セルロースを溶解させた銅アンモニア溶液を酸性の凝固液に押し出すとセルロースが再生します。これが繊維となり、キュプラが出来上がります。この製法が「銅アンモニア法」や「湿式紡糸法」と言い、正式名称の「銅アンモニアレーヨン」に由来しています。製法であり、キュプラには銅は含まれていません。
「キュプラ」の歴史
キュプラは比較的に新しく開発された繊維です。キュプラの誕生のきっかけともなったのは、1856年にセルロースが酸化銅アンモニア溶液に溶融することが発見されました。
1890年に入ると工業的に鋼アンモニア溶液に溶かし、硫酸液で湿式紡糸したものが生産されるようになりました。そして、1897年にドイツの化学者マックス・フレンメリーとヨハン・ウルバンが白熱電球のフィラメント用としてキュプラを発明しました。しかし、本来の白熱電球のフィラメントとしては売れずに、その特許をドイツのJ・P・ベンベルク社が取得し、服地用途として、キュプラが使われるようになりました。
1931年に日本窒素肥料(現在の旭化成とチッソ、JNC)が、ベンベルク社と提携して生産を開始したことで、日本でもキュプラが普及しました。
「キュプラ」の特徴
資源の有効利用
コットンリンターは、本来繊維としては使われない産毛のような繊維です。それを溶解して、繊維として製造している点は、資源の有効利用として評価されています。廃棄される繊維を使用しているので、サステイナブル繊維としても認知されています。
生分解性がある
コットンリンターの主成分はセルロースで、土に埋めると微生物の働きによって分解され自然に還る生分解性があります。石油を原料とする合成繊維にはない性質で、環境に優しい素材です。
焼却時の有害物質発生が少ない
生分解性はありますが、たとえ不要になり焼却処理をしたとしても、有害物質の発生がほとんどありません。環境への負担が少ない繊維です。
なめらかな肌触り
キュプラは、繊維が丸く、表面がとてもなめらかな繊維です。滑りのいい表面で、肌触りがいいことが特徴です。摩擦が起きにくいので、裏地に適した繊維として重宝されています。
引用:化学繊維のかたち|日本化学繊維協会(化繊協会) (jcfa.gr.jp)
光沢感がある
キュプラは美しい光沢感も特徴です。繊維の断面が正円形で、なめらかな表面をしているので、シルクのような上品な光沢があります。
静電気が起きにくい
キュプラは静電気も発生しにくい繊維です。冬や乾燥した際の静電気って嫌ですよね。キュプラは静電気抑制に貢献してくれるので、冬場のパートナーとして迎え入れてみてはいかがでしょうか?
吸湿性・放湿性がある
原料がコットンリンターやパルプであるキュプラは、吸湿性と放出性に優れた繊維です。そのため、汗を素早く吸収して、発散してくれるので、べたつきにくいので着ていても不快に感じることはありません。春夏の素材や、肌に直接触れる裏地などによく使用されています。
接触冷感がある
キュプラは他の繊維と比べても、水分を吸収しやすく保っているため、触れると冷感があります。清涼感があり、吸湿性・放湿性も優れていることから、夏にもおすすめな繊維です。
ドレープ性がある
キュプラの繊維の断面は円形で、弾力と反発性も持ち合わせています。この反発性のおかげで生地を垂らすとゆったりと自然にひだが入るようなドレープ性があります。しなやかで美しいシルエットを生み出してくれます。
熱に強い
セルロース繊維なので熱に強い特徴があります。熱による軟化や溶融がしにくい繊維です。
染色性が高い
キュプラは深みのある色に仕上がり、染色性が高い繊維です。原料のコットンよりも染色性が優れているとされています。
まとめ
キュプラ(Cupro)
- 木材パルプや、コットンリンターが原料の再生繊維
- 正式名称は「銅アンモニアレーヨン」
キュプラの製造法
- 綿花(リンター)の採取
- リンターの溶解
- 紡績
「キュプラ」の特徴
- 資源の有効利用
- 生分解性がある
- 焼却時の有害物質発生が少ない
- なめらかな肌触り
- 光沢感がある
- 静電気が起きにくい
- 吸湿性・放湿性がある
- 接触冷感がある
- ドレープ性がある
- 熱に強い
- 染色性が高い
キュプラは天然繊維の要素と、化学繊維の要素を持ち合わせているハイブリッドで優秀な繊維です。それに加えて資源の有効活用や環境負荷の少ない側面も持ち合わせているので、今後とも注目の高い繊維でしょう。
旭化成のベンベルグ工場火災による供給減により、裏地はやはりキュプラがいいと思われた方も多いのではないでしょうか。
キュプラ裏地は、無地も人気がありますが、富士吉田産地で作られるジャカード裏地も高級スーツの裏地として要望が続きそうです。