エンボス加工は、後加工で、生地の見え方や表情を変えることができる加工です。
陰影や立体感を出すにはこれといった加工法です。デザインの幅を広げてくれるファッションには欠かせない加工の一つです。
今回は「エンボス加工」のメリットやデメリットについて紹介したいと思います。
エンボス加工とは?
エンボス加工
「エンボス加工」とは、英語でもEmbossと呼ばれ、型押しや柄を浮き上がらせるという意味を持ちます。専用の機械を使って、凸凹の模様を彫った押し型のロールや平板を加熱して、圧力をかけながら生地に浮き出し(エンボス)模様を作る加工法です。布地以外にも、革製品や紙などにもエンボス加工を施すことができます。衣料品はもちろん、カーテンなどのインテリア素材や資材製品、名刺や鉄鋼加工などさまざまな分野でも活躍する加工法です。
エンボス加工の方法
生地へのエンボス加工法としては、ローラーを使って型押しする「ローラーエンボス加工」と、平板を使って型押しする「平板型エンボス加工」があります。
ローラーエンボス加工
ローラーエンボス加工は、柄や模様を彫ったローラーに、熱を加えて圧力をかけながら生地に押し当てます。凹凸の深さやローラーの硬さなどを調整することで、深い立体感を出すこともできます。
平板型エンボス加工
平板型エンボス加工は、ローラーではなく、平らな金属でできた板に柄や模様を彫って、それを生地に押し当てて柄を浮かび上がらせます。ローラーと同様に熱と圧力をかけながらアイロンのように押し当てて加工します。
エンボス加工に向いている素材とは?
エンボス加工は、熱と圧力をかけて加工します。そしてこのエンボス加工は、「熱可塑性」を持った素材に適しています。熱可塑性とは、合成繊維にある特徴で、常温では変形しないが、熱をかけることによって溶けて変形することができ、冷えると固まる性質を指します。ナイロンやポリエステルなどが代表的な素材です。ナイロンは熱可塑性を持ち合わせていますが、水分量が高くポリエステルに比べると熱セット性にかけます。そのため、熱セット性の高いポリエステル素材で加工されることが多いです。ポリエステルは耐熱温度も高いため、よりしっかりとした形状安定力があります。
PVC合皮の素材などでもよく加工されています。
熱可塑性を持っていないコットンやシルクなどの天然繊維の場合は、そのままでは押し型が定着しないのため、エンボス加工の前に樹脂を含侵させて、樹脂の熱可塑性を利用して跡を付けます。樹脂を使用するので、風合いは硬くなることは避けられません。
エンボス加工のメリット
立体的な柄ができる
エンボス加工の最大の特徴は、立体的な柄や模様を生み出すことです。押し型によって、凹凸ができるので、立体的な柄を作ることができます。押し型で押された箇所は凹み、押し型で押されていない箇所は浮き上がったような仕上がりになります。
プリントなどでも模様を作ることはできますが、立体感なプリント染色ではできません。立体感な模様として、ドビー織機やジャガード織機を使用して組織を工夫することもできますが、凹凸の大きさはエンボス加工の方が強くでるでしょう。
デザイン性が高まる
エンボス加工は、熱可塑性を持ったポリエステルやナイロンなどの合成繊維はもちろん、樹脂を使用することで、さまざまな生地へ加工ができます。すでに在庫を抱えている生地などにエンボス加工を施すと、全く見た目の違った生地へ仕上げることができます。すでに加工場で持っている柄を使うこともできますし、ローラーや平版に自分独自の柄を彫って新たにデザインすることもできます。ブランドのロゴなどのオリジナルの柄を作ることで、他にはないデザインを生地に浮かび上がらせることもできます。オリジナルデザインを作る場合、アップチャージなどが発生しますが、一度ローラーを彫ってしまえば、他の生地へのエンボス加工にも使用することができます。
生産ミニマムが小さい
前述の通り、ドビー織機やジャガード織機を使用することで、立体感な生地を作ることはできますが、一般的に生機での生産ミニマムはエンボス加工に比べてはるかに大きくなりがちです。エンボス加工の場合、数十メートルから数百メートル程度でも加工が可能です。生機での生産ミニマムは、あまりに数量が少ないと欠点が発生しやすいため、品質安定のために場合に数千から数十万メートルを要求されることがあるので、エンボス加工は加工のミニマムが少ないと言えるのでしょう。
質感出しができる
エンボス加工は、レザーライクなどの質感出しも得意です。レザーの少し凹凸のある風合いも、エンボス加工することで、本物の革を使用しなくてもリアルに再現することができます。動物の皮革を使用しないブランドも増えてきている中、フェイクレザー用途としてもエンボス加工は重宝されています。派手な柄だけではなく、さりげない細かい柄や表面の再現にもエンボス加工は活躍します。
肌の接地面が少なくなる
エンボスのデザイン柄や凹凸の深さにもよりますが、凹凸があることで、肌への接地面を減らすことができます。部分的に肌と生地との間に隙間を持たせることで、べったりと生地が肌にまとわりつきません。空気の層や通気性が上がるので、汗をかいても快適な着心地が期待できます。
エンボス加工のデメリット
型崩れする可能性がある
着用や洗濯などを繰り返すうちに、エンボスの柄を薄くなっていく可能性があります。特に、樹脂塗布によってエンボス加工された天然繊維などの生地は、洗濯などで樹脂が取れることで、エンボスの柄も消えてしまいます。
アイロンに注意
熱可塑性を利用して行われるエンボス加工ですが、アイロンで高温高圧を続けると形が崩れてしまう可能性があります。できれば、エンボス加工された生地には、アイロンを避けた方がいいでしょう。どうしてもアイロンかけが必要な場合、当て布をしたり、低温などの工夫をした方が、より長く形をキープすることができるでしょう。
金型(モールド)作成の初期費用がかかる
メリットとして「生産ミニマムが小さい」ことをあげましたが、これは、工場などが既にもっている金型を利用した場合となります。オリジナルの図案で型押ししたい場合は、金型の作成が必要となり、高額な初期費用がかかるのが一般的です。そのため、各加工工場がどのような金型を持っているかを把握していることも企画担当者のノウハウの一つとなります。
まとめ
エンボス加工
- 凸凹の模様を彫った押し型のロールや平板を加熱して、圧力をかけながら生地に浮き出し(エンボス)模様を作る加工法
エンボス加工の方法
- ローラーエンボス加工
- 平板型エンボス加工
エンボス加工に向いている素材
- 熱可塑性のある合成繊維:ナイロンやポリエステルなど
- 熱可塑性のない場合、樹脂を使用して加工することは可能
エンボス加工のメリット
- 立体的な柄ができる
- デザイン性が高まる
- 生産ミニマムが小さい
- 質感出しができる
- 肌の接地面が少なくなる
エンボス加工のデメリット
- 型崩れする可能性がある
- アイロンに注意
エンボス加工は、金型を一から作成すると初期費用がかかってしまいますが、デザインの幅を広げることができるほか、高級感の演出などワンランク上の仕上がりにも効果があります。エンボス加工にしか出せない立体感やデザインに挑戦してみてはいかがでしょうか?
また、最近では、オリジナルのエンボスをしたい際に、高額な金型の初期費用をかけずとも、凹凸のあるものを金型の代わりに使い、型押しができる加工技術もあります。レース、刺しゅうなど凹凸のある生地や、レーザーカッターで比較的安価に木型を作り、初期費用を抑えることもできます。